2005/01/22

大喧嘩(反乱シリーズpart5)

  年末で店が忙しくなり、カジュアルショップでは新たに男のバイトスタッフ2人を雇い入れた。いずれも19歳で、浪人生とフリーターである。男のスタッフは3人、女子は19歳の短大生・ケーコと同じく19歳の専門学校生・みゆき、そしてもう一人は20台半ばくらいの出向社員。3人の中で最もかわいいケーコがにゃべのお気に入りであり、またケーコも他の男2人には興味を示す事なく、自分にばかり話し掛けてくる。そうした日常の勤務が続き、にゃべとケーコの仲はすっかり親しくなった。

 

店長不在の、そんな或る日の出来事。客足が途絶え、閑散とした店内にはにゃべとケーコの会話ばかりが弾む。悪戯好きなところのあったケーコのちょっとした悪戯にはまり、思わずハメを外したにゃべ。冗談でケーコに掴みかかるマネをしたその時、タイミング悪く滅多に来ないはずの社長が唐突に、その小太りの姿を現した。

 

「オイオイ、なにしてんだー」

 

若者同士の冗談ではあったが、今なら「セクハラ」と勘違いされかねない他愛のないじゃれ合いが、この時の社長の頭に強烈にインプットされたのかもしれない。やがて、これが引き金となり事態が急転していく事になるのだが、そうとは知らぬ天下泰平の若者2人。年末を控え何かと忙しいのか、店長の不在も多くなるに伴い、ケーコが閉店の夜8時まで勤務が多くなり、電車の駅まで仲良く歩いて行くのが当たり前の事になっていった。

 

 カジュアルショップの時給は最低ラインギリギリだったが、連日朝945分から夜8時までの10時間を超える勤務時間の長さから、バイト料は結構な額になった。

 

「ほら、バイト料だ!

どうだ?

こんな大金、手にした事ねーだろ?」

 

確かに17歳のにゃべには、手にした事のない大金だ。地下街の店だけに正月は元日1日が休みのみで、翌2日かはら早くも勤務開始である。

 

さて、年の明けた或る日の事・・・オバサンのグループがやって来て、ペチャクチャ喋くりながら商品を弄りまわしている。

 

「ちょっとぉー、おにーちゃーん」

 

とオバサンから、恐怖の質問攻勢が飛んできた。まだ、しっかりした商品知識がないだけに、若い客には

 

「いやー、まだ新入りなもんで・・・ハハハ」

 

でお茶を濁して来たが、相手はなにしろ厚かましいオバタリアンだけに、そう簡単には開放してくれなかった。

 

「え? なんだって?

良くわかんないわねー。アンタ、もっとわかるように説明してくれなきゃあ、ダメじゃん」

 

オバサンのしつこい口撃と安香水の悪臭に耐え切れず、遂にはデタラメな口上を並べ立てては若い客の方へと移って行く。にゃべに代わり、オバタリアンどもの標的となったのが若社長だ。

 

「なによー。さっきのおにーちゃんと、言ってる事が全然違うんだけど?

一体、どっちが本当なのさ?」

 

などと詰め寄られ

 

「それは勿論、私の方が正しいです。彼はまだ新人なので、知識が乏しくて申し訳ありませんです、ハイ・・・」

 

と巧みに余裕を隠して、表向きは平身低頭これ務めていた。

 

 さて、そんなオバタリアングループの嵐が去っていくや

 

「君、ちょっと・・・」

 

と手招きし、喫煙コーナーへと誘う若社長。

 

「オイオイ、あまりいい加減にやられちゃあ、困るなー。君のせいで、オレまで怒られちゃったじゃないか」

 

と睨みを利かせて来たが、そこは血気盛んなにゃべ。若社長の睨みごときはどこ吹く風と聞き流していた事は、言うまでもない。

 

「ああ、さっきのオバハン連中の事ですか?

どうも、あんまりしつこいので・・・どうせ冷やかしだけなんだから、あーゆーのは適当にあしらっとけば、いーんじゃないですかね?」

 

「バカ言うな。それじゃ、この仕事は勤まらねーんだよ。ヒマだと思ってこっちの店に来てもらったんだが、もしかして今までもずっとこんな調子で、やってたのか?

よし、じゃあ明日からサカエチカの方に来てくれ。オレが、直接見てみるから」

 

そこで翌日から、社長の目が届く栄地下店へ移動となった。地下街ドン詰まりの立地に、新規オープンだったこれまでの名駅地下ユニモール店とは違い、サカエチカの店舗は以前から知られた店らしく、比較にならないほど客が多かった。

 

そこへ、あたかも前日のビデオテープでも見るかのように、またしてもオノボリサン丸出しといった感じのタリアングループがやってくるやいなや、早速美少年店員にゃべに目を付けた事は、言うまでもない。

 

「ねぇー、ちょっとォー・・・おにーちゃ~ん」

 

すっかりタリアン恐怖症と化したにゃべだけに、しつこい質問攻勢を適当にあしらいおとなしそうな若い客の方へと逃げていく。改めて、商品知識のなさを露呈する仕儀となり

 

「にゃべ君、ちょっと・・・」

 

再度、しかめっ面の社長に呼ばれる。

 

「うーん、こりゃ全然アカンな!

キミの場合、見た目はもってこいと思ったんだがな・・・」

 

地下街を歩く無数の人並みの中、好奇の眼に晒されそうな気配を感じたにゃべに、沸々として怒りが湧き起こって来た事は言うまでもない。

 

「なにもこんな人通りの場所を選んで、トクトクと説教するようなこともないでしょうよ?」

 

トクトクと、とはなんだ。

ま、特に話すこともない!

明日からは、もう来なくてもよろしい・・・キミは接客業にはまったく向いてないようだから、違う職を探した方が賢明だろーな。残りのバイト料は、銀行口座にでも・・・」

 

「私も、こんなモンスター相手の仕事を選んだのは軽率でしたな。というより所詮は学生のバイト、実際たかだか500円足らずの最低時給で、そこまでハイスペックを求められるとは夢にも思いませんでしたが。それに、今後どんな仕事を探すかは、あくまで私自身の問題なので余計なお節介は無用でしょう。それと残りのバイト料とやらのハシタ金なんぞは、ビタ一文受け取る意思はないので、心配ご無用!」

 

呆気にとられる相手を尻目に、怒りに任せて一気にまくし立てるにゃべ。こうして初体験のバイトは僅か1ヶ月、後味の悪さを残してのピリオドとなった  (-o-)ノ ┫オリャ

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