擦れ違いざまに女子2人と軽く言葉を交わして、ドージマは消えていった。
「あれっ、タカシマか?
後ろには、オーミヤも?
オマエら、まだ残ってたのかよ?」
「う、うん… まあね。部活で遅くなっちゃって・・・それよりもさ、アンタどーしてたのさ、一体?」
「ちっ!
オマエまでが、同じ事を訊くのかよー。今日はそればっかりで、散々ウンザリしてるのに・・・」
「だって・・・そりゃ、当然なんじゃないの?」(真紀)
「そうそう・・・一体なにがあったのか、責任持って白状しなさいよー。アンタねー。ムラカミなんか、どんだけ心配してたか知ってるの?
ねえ、真紀?」
少し怒ったような、赤みの射した表情と詰問調に口を尖らせ気味の千春。
「ムラなんて、何も心配してなかったよな?」
と、照れ隠しに言うと
「うん・・・そりゃ実際のところ、ムラカミがどれだけ心配してたかはわからないけど・・・」(真紀)
「でも
『アイツを連れてこられるのは、オマエしかいねーんだから、何とかしろ!』
とか、みんなに相当突き上げられてたことは事実だし・・・」(千春)
「彼って最後まで平静を装っていたのは、さすが大したもんだったわ・・・でも事情がわからないから、上手く説明できなくてね・・・それが可哀想だったな」(真紀)
『オレだって、なんも聞いてねーからしらんわ!』
とか言ってたよね」(千春)
「そうそう・・・『遅かれ早かれ、いずれ必ず戻ってくるから心配いらん』とか言ってたよ」(真紀)
「ちゃんとお見通しだったんだねー」(千春)
「ま、なんか考えがあってのことだから仕方ないけど、ムラカミにだけはちゃんと説明してあげないと・・・」(真紀)
真紀の方も慎重な言い回しながら、口調はさすがに厳しかったものの、あのいつに変わらぬ穏やかな笑みをその白い顔に浮かべ、あくまで冷静な表情を崩さないのはさすがだ。
「それよか、今のクソデカイのがキャプテン?」(千春)
「クソは余計だろ・・・」
「あれって、ドージマでしょ? やっぱ、格好いいねー」(真紀)
「あれがドージマかー。どーりで、ウワサ通りデッカイね。てっきり先輩かと思って『お疲れ様』なんて言っちゃったよ」
と、千春が舌を出した。
「さすがキャプテンじゃん。ちゃんと空気読んで、気を利かしてくれたのね」(千春)
「『じゃ、よろしくー』とか言ってたよ」(真紀)
「そうそう、全部お見通しだね。立派なキャプテンだわ・・・誰かとは、まったく正反対みたい」(千春)
「うるせーな!」
「で・・・話の続きは?」(真紀)
「続きって・・・別になんもないぞ」
「ま、そんなに話すのが嫌なら、今日は訊かない事にしてやるわ・・・」(千春)
「そうそう・・・先は長い事だしね」(真紀)
と、腕組みをする女学生2人。なかなか解放されそうもない針の筵だ。
「んじゃ折角だし、3人で一緒に帰ろうか」
「なにが折角なんだか・・・」(千春)
「そーいや、3人で一緒に帰るなんて初めてだよねー」
と珍しく、真紀のちょっとはしゃぐ華やいだ声が響いた。
3人で仲良く(?)、夜道を自転車で走る。なんとなく車道側ににゃべ、真中に千春、反対側に真紀となっていたが、時々真紀と千春が入れ替わったりしていた。いずれにせよ170cm近い千春と、それよりさらに長身の真紀とのスリーショットは、傍目にはお似合いのトリオに見えるだろう。
「ねー、にゃべとこんな風に一緒に帰るなんて、初めてよねー」(真紀)
「初めても何も・・・オレ、オンナと一緒に帰るの自体が、初めてだからさー」
「私だって、オトコと一緒に帰った事なんてないよー」(千春)
「私もー」(真紀)
「誰かに見られたら、誤解されそうかな?」(千春)
「『帰りが遅くなったので、2人が通り魔に襲われないようエスコートしました』 とか言っとくか」
「きゃあー」
「アンタのエスコートじゃ、頼りないわ・・・」(千春)
闇にポッカリ浮かぶ、日本人離れのした二つの白い顔。
長い髪を風に靡かせ目元の涼しい顔の千春と、なぜか謎めいた笑みを浮かべたままのショートヘアの真紀。寒い冬の季節にして、なにか心根が温まるような感じがあった。
(やっぱり、この学校に帰って来て良かったのだ・・・)
と改めて強く「青春」を実感する一幕だった。
次第に無口になりがちな中で、夜道を走る3台の自転車の音だけがやけに大きく聞こえるうちに、家が見えて来た。
「へー・・・にゃべの家って、結構大きいんだね・・・」(真紀)
「でもまだこの裏に、母屋の離れがあるんでしょ?」(千春)
「何で、オマエが知ってんだよ・・・」
「そのくらい知ってるさ。だって、小学校の時から有名だったし・・・噂でも散々、聞いてたからね」
「それはともかくとして、こっちだとタカシマは方向が違うんじゃねーのか?」
「ま、いいからいいから・・・」
と、千春が例の小悪魔的な微笑を浮かべた。
2人がなにも追及してこなくなったことが、余計に圧迫感となっていく。
「オホン・・・まあ色々あったが、いずれ機会を見てちゃんと話すよ・・・」
「うん、まあね・・・それは、どっちでもいいんだけど・・・どうせ口が達者だから、騙されそーだしな」(真紀)
「確かに・・・でもやっぱ、ちゃんと説明する義務があるな。それよりも、今後もうあんな唐突な事して、みんなに心配かけちゃ絶対にダメだからね!」
と睨む千春。なんだか姉のようだ。
あくまで生真面目な千春の強い口調に対し
「なんか笑えるんだわ・・・」
と、普段は優等生を絵に描いたような真紀が、なぜか笑ってばかりいるのが、普段と逆のような (; ̄ー ̄)...ン
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