2005/01/10

怪物の挫折(高校サッカー選手権地区大会part2)

 迎えた県大会の初戦は、にゃべのシュートが決まって先制したものの、前半で追いつかれる展開のまま「1-1」で後半に突入という思わぬ苦戦だ。頼みのエース・ドージマが相手DF2人から徹底的なマークに遭い、完全に封じられるという想定外の苦しい展開で、ゲームプランが狂ってしまった。後半終了間際に、ようやく3年生のシュートが決まり「2-1」で思わぬ薄氷の勝利だ。

 

続く2回戦。勝てば「ベスト16」だが、トーナメント運が悪く私立の強豪『N高』と早くもぶつかってしまう。

 

前日同様、頼みのエース・ドージマにはDF2人がぴったりと付いて、完全に封じ込められる苦しい展開が続いた。攻撃陣も、これまでの相手とは比較にならぬくらいさすがに強力で、あっという間に2点を捥ぎ取られて前半が終了した。

 

「あれだけマークされたら、ヒロ(ドージマ)は厳しいな。オレたちで何とか」

 

「やっぱ私立の強豪ともなると、公立とは全然違うな・・・」

 

とゴトーと確認し合ったが、その2人にも厳しいマークが付いていて自由に動けない。「青田刈り」が当たり前の私立の名の知れた高校の強さを、またしても肌で実感させられることに。

 

 にゃべ、ゴトーの連係からゴトーがシュートを決め、ようやく1点差となって

 

「おっしゃー、行けるぞ!」

 

と意気上がる中、そろそろ疲れの見え始めた相手DFを交わしながら、再三シュートを放つもののゴールが遠い。終了近くに、ようやく厳しいマークを掻い潜ったドージマの芸術的なシュートが炸裂し

 

「やった! 同点か!」

 

と思われたが、非情にもボールはゴールポストを叩いて弾き返された。この落胆を狡猾な相手は見逃さず、ゴールキックから隙を突いたカウンターで決定的な3点目を挙げ「終戦」となった。

 

エースのドージマは、自身初めての「2試合無得点」となったばかりか、県大会2試合無得点と完全に封じられたことで、珍しく落ち込んだ。

 

「負けたのは、オレのせいだ・・・みんな、すまん・・・」

 

と項垂れ、元気なく186cmの巨体が消えていく。

 

「うむ・・・アイツでも、こんなことがあるんだな・・・ヤツも人間だったか・・・」(にゃべ)

 

「そーだな・・・ヤツは天才だと思っていたが・・・やはり県大会ともなると、凄いのがまだまだ居るってことだな・・・」(ゴトー)

 

と、初めて目にするドージマの無残に打ちひしがれた姿に、さすがの毒舌で鳴る2人も戸惑いを隠せない。

 

 「終ったことを、とやかく言ってもしゃーない。この悔しさを、これからどれだけ肥しにできるかだ!」

 

と、3年生から喝を入れられたドージマ。

 

「オマエには、あれだけの厳しいマークが付いてたんだから、無理もねーよ」(ゴトー)

 

「そうそう・・・なんせ、オマエくらいデカイのはどーしても目立つから、相手もそれだけ警戒してくるのは仕方がない」(にゃべ)

 

実際、186cmのセンターフォワードとなると、かつての自分もそうだったように相手チームからは見た目だけでも脅威だけに、真っ先に止めに来るものだ。

 

が、ドージマは

 

「ゴチャゴチャうるせーわ、てめーら。ちっとは黙っとれ!!!」

 

と怒鳴ると、荒々しくドアを閉めて出て行った。

 

「なんだ、ありゃ?」

 

「八つ当たりかよ・・・? ( ´Д`)はぁ?

 

初めて見せる巨漢激怒のド迫力に、すっかり毒気を抜かれたにゃべとゴトーの2人。

 

しばらく無言で顔を見合わせ呆気に取られていると、ペットボトルを手にしたドージマが戻ってきて、どっかりと腰を下ろした。

 

「すまねーな。マークを掻い潜って、きっちり決めないかんのがエースだよな・・・」

 

と、ポツリとひと言。先ほどの八つ当たりじみた剣幕に、気分を害していただけに

 

「まあな・・・口だけなら何とでも言えるからな・・・」

 

と、イヤミを咬ましてやると

 

「そうそう・・・実践が難しいんだよな、実践が!」

 

と、すかさず同じ思いのゴトーが便乗する。

 

「うむ・・・」

 

と、今度は案外素直に応じたドージマ。元々、練習量はナンバーワンで知られた男だったが、これまで以上に「練習の鬼」と化した。そのストイックな姿は不言実行の男らしく、無言のうちにも「復活」を強く誓っているようだった。

0 件のコメント:

コメントを投稿