迎えた県大会の初戦は、にゃべのシュートが決まって先制したものの、前半で追いつかれる展開のまま「1-1」で後半に突入という思わぬ苦戦だ。頼みのエース・ドージマが相手DF2人から徹底的なマークに遭い、完全に封じられるという想定外の苦しい展開で、ゲームプランが狂ってしまった。後半終了間際に、ようやく3年生のシュートが決まり「2-1」で思わぬ薄氷の勝利だ。
続く2回戦。勝てば「ベスト16」だが、トーナメント運が悪く私立の強豪『N高』と早くもぶつかってしまう。
前日同様、頼みのエース・ドージマにはDF2人がぴったりと付いて、完全に封じ込められる苦しい展開が続いた。攻撃陣も、これまでの相手とは比較にならぬくらいさすがに強力で、あっという間に2点を捥ぎ取られて前半が終了した。
「あれだけマークされたら、ヒロ(ドージマ)は厳しいな。オレたちで何とか」
「やっぱ私立の強豪ともなると、公立とは全然違うな・・・」
とゴトーと確認し合ったが、その2人にも厳しいマークが付いていて自由に動けない。「青田刈り」が当たり前の私立の名の知れた高校の強さを、またしても肌で実感させられることに。
にゃべ、ゴトーの連係からゴトーがシュートを決め、ようやく1点差となって
「おっしゃー、行けるぞ!」
と意気上がる中、そろそろ疲れの見え始めた相手DFを交わしながら、再三シュートを放つもののゴールが遠い。終了近くに、ようやく厳しいマークを掻い潜ったドージマの芸術的なシュートが炸裂し
「やった! 同点か!」
と思われたが、非情にもボールはゴールポストを叩いて弾き返された。この落胆を狡猾な相手は見逃さず、ゴールキックから隙を突いたカウンターで決定的な3点目を挙げ「終戦」となった。
エースのドージマは、自身初めての「2試合無得点」となったばかりか、県大会2試合無得点と完全に封じられたことで、珍しく落ち込んだ。
「負けたのは、オレのせいだ・・・みんな、すまん・・・」
と項垂れ、元気なく186cmの巨体が消えていく。
「うむ・・・アイツでも、こんなことがあるんだな・・・ヤツも人間だったか・・・」(にゃべ)
「そーだな・・・ヤツは天才だと思っていたが・・・やはり県大会ともなると、凄いのがまだまだ居るってことだな・・・」(ゴトー)
と、初めて目にするドージマの無残に打ちひしがれた姿に、さすがの毒舌で鳴る2人も戸惑いを隠せない。
「終ったことを、とやかく言ってもしゃーない。この悔しさを、これからどれだけ肥しにできるかだ!」
と、3年生から喝を入れられたドージマ。
「オマエには、あれだけの厳しいマークが付いてたんだから、無理もねーよ」(ゴトー)
「そうそう・・・なんせ、オマエくらいデカイのはどーしても目立つから、相手もそれだけ警戒してくるのは仕方がない」(にゃべ)
実際、186cmのセンターフォワードとなると、かつての自分もそうだったように相手チームからは見た目だけでも脅威だけに、真っ先に止めに来るものだ。
が、ドージマは
「ゴチャゴチャうるせーわ、てめーら。ちっとは黙っとれ!!!」
と怒鳴ると、荒々しくドアを閉めて出て行った。
「なんだ、ありゃ?」
「八つ当たりかよ・・・? ( ´Д`)はぁ?」
初めて見せる巨漢激怒のド迫力に、すっかり毒気を抜かれたにゃべとゴトーの2人。
しばらく無言で顔を見合わせ呆気に取られていると、ペットボトルを手にしたドージマが戻ってきて、どっかりと腰を下ろした。
「すまねーな。マークを掻い潜って、きっちり決めないかんのがエースだよな・・・」
と、ポツリとひと言。先ほどの八つ当たりじみた剣幕に、気分を害していただけに
「まあな・・・口だけなら何とでも言えるからな・・・」
と、イヤミを咬ましてやると
「そうそう・・・実践が難しいんだよな、実践が!」
と、すかさず同じ思いのゴトーが便乗する。
「うむ・・・」
と、今度は案外素直に応じたドージマ。元々、練習量はナンバーワンで知られた男だったが、これまで以上に「練習の鬼」と化した。そのストイックな姿は不言実行の男らしく、無言のうちにも「復活」を強く誓っているようだった。
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