3回戦の相手は、全国大会の出場経験がある『T高』だ。初戦の『T高』も、全国大会を経験している強豪だったが、この『T高』はそれ以上の強敵である。
この試合に勝てば「ベスト8」となるが、その場合は前年優勝校で今回も優勝候補と目される『C高』が待ち受けているという、厳しい組み合わせが待っていた。
が、まずは目の前の『T高』を倒すことだ。目指すは「ベスト8」である。
ゲームは、開始から実力で勝る『T高』のペースだ。攻撃陣の鋭い動き、DF陣の堅い守り、そして息の合った連係プレーなど、初戦の相手のようにラフプレーに頼ることもない。どれを取っても『A高』には、まさにお手本となるような『T高』のゲーム運びだった。
ところが「上手の手から水が漏れる」という諺にもあるように、連係プレーのちょっとした隙を突いたところから、一気にチャンスが広がる。絶妙の飛び出しを見せたのが、ゴトーだ。この男のゴールに対する嗅覚と、常にゴールに向かっていく闘争心は、どんな強豪校の選手にも負けてはいなかった。
自らドリブルで突破すると、DF2枚を交わしてミドルシュートが見事に決まった。先取点に勢いづいた『A高』は、さらに追い討ちをかけるように『T高』を追い詰める時間が続く。前半30分近くまでは一進一退、攻守を入れ替えながらほぼ互角の展開が続いていたが、30分を過ぎた辺りから徐々に地力を発揮し始めた『T高』が、ジワジワとプレッシャーをかけてくる。
そして前半終了5分前、相手の決定的なチャンスを一旦は何とか凌いだものの、コーナーキックからのセットプレーを奇麗に頭で押し込まれ、同点に追いつかれた。前半を終えて「1-1」
「強豪相手に健闘した・・・では意味がねえ。勝負は、絶対に勝たなアカン!」
とハーフタイムにドージマが気合を入れて迎えた後半は、しかし前半以上に苦しい展開が待っていた。後半開始早々に1点を取られ、この試合始めてリードを許す。技術の高さや体力は言うに及ばずだが、読みの深さも併せ持っているのが強豪校だ。前半でこちらの手の内を早くも分析したか、攻め手は悉く読まれチャンスの芽が次々と摘まれる。徐々にチャンスすらなくなり、ボールを支配される時間が長くなる悪い展開のまま、時間は刻々と経過していった・・・
厳しい時間を何とか耐えて、残り時間も少なくなってきたところで、久しぶりのチャンスが訪れた。残り5分を切ったところで、ゴール前の攻防。にゃべが放った乾坤一擲のミドルシュートは、相手DFの足でカットされコーナーキックだ。
(おそらく、これがラストチャンスだ・・・)
と祈る中、ゴトーの狙い澄ましたコーナーキックに、ドージマの豪快なボレーシュートが炸裂。
決まった!!
と思ったボールは、しかしキーパーがしぶとく体を張って防ぐ。が、まだ繋がっている。 相手選手が蹴り上げたボールが高く上がり、空中戦を制したWBムラサキのヘディングから、2年生のタローがシュートを放ったが、相手に跳ね返された。カットボールの空中戦の競り合いを制した相手選手のヘディングは狙いが外れ、ちょうど後ろに居たにゃべの上腕を掠めて胸に当たって落ちると、咄嗟の本能で放ったシュートが見事に決まった。
同点!!!
「ハンド、ハンドだ!」
猛抗議をする『T高』の選手たち。が、レフェリーから
「故意ではない・・・胸だ」
と、あえなく却下された。
残り時間は僅か。ゴールキックからカウンターを狙った『T高』は、歓喜に沸く『A高』の一瞬の隙を突いて、一気にゴール前まで走る。慌てて戻るDFを交わして放ったシュートが、ゴールに吸い込まれると見えたが、僅かにゴールポストを掠めていった。ゆっくりと時間をかけて、ケントがゴールキックを蹴ったところで終了のホイッスルが響いた。
「2-2」引き分け。こうして、勝負は運命のPK決着へともつれ込む。
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