2005/04/12

大荒れの初戦(高校サッカー選手権大会part2)

親友イモとの試合を通じ「サッカーの素晴らしさ」、「スポーツの素晴らしさ」を改めて痛感したばかりだったが、今度は一転して「サッカーの嫌らしさ」或いは「スポーツの嫌らしさ」の地獄を味わうことになろうとは。その意味では、県大会初戦の相手となった『T高』は、老獪さではこちらよりも一枚も二枚も上手であったことは、やはり認めないわけにはいかない。

 

さすがに『T高』は、全国大会出場経験もある強豪だった。

 

「初戦から、こんな強豪と当たるとはついてねーな!」

 

というゴトーに

 

「なに言ってんだ。相手に不足なしじゃねーか!

それだけ倒し甲斐があるってことよ」

 

と、ドージマが応じる。

 

「そうだ。オレたちだって、インターハイは8戦負けなし。今度の地区予選を入れれば、10戦負けなしの8連勝中だ。『T高』など、まったく恐れるに足らん!」

 

と言うと、ゴトーも

 

「そーいや、ずっと負けた記憶ねーよな。オッシャー、このまま全勝で全国大会だ!」

 

と、大いに盛り上がった。

 

そんな、いい雰囲気迎えた県大会初戦。両エースのにゃべとゴトー、さらにOHとは言え得点源にもなるドージマのトリオには、執拗なマークがつくのは毎度のことだったが、こと『T高』DF陣の執拗さは想像を遥かに超越していた。それは「執拗さ」などというレベルはではない、ラフプレーの嵐だ。

 

ポジション争いでユニフォームを掴むくらいは当たり前で、体を寄せると見せかけたタックルなども当たり前。しかも「常習犯」らしく、どれもが巧妙にレフェリーの死角を突いていた。セットプレーのポジション争いなど、レフェリーが目を離している隙に肩をぶつけて来たり、酷い時にはさりげなく拳で背中を小突いたりもする。

 

「オイッ、なにすんだよ」

 

と睨みを効かせても、上の空を向いてどこ吹く風という表情の、しらじらしさが腹立たしい。

 

そんな一触即発の中、両チーム無得点のままゲームが進み、ようやく『A高』がチャンスを迎えた。執拗なマークを外し、ゴトーがドリブルで持ち込んでいく。懸命に戻った相手DFが猛チャージをかけ、ミドルシュートを狙ったゴトーに強烈なタックルをかました。

 

吹っ飛ぶゴトー。ホイッスルが高らかに鳴り、タックルをした選手にイエローカードが出る。「一発退場」でもおかしくないような悪意の篭った酷いプレーだったが、ともかくセットプレートなって『A高』のチャンスは続く。

 

「ヒロ、頼む!」

 

フリーキックはドージマに任せ、ゴトー自身はゴール前に詰めに行った。当然、にゃべもゴール前に行くと、ポジション争いで例のDFがガチガチとやり始めた。

 

体に触れてくる手を思い切り払いのけ

 

「邪魔くせーな、このバカ!」

 

と、睨みつけてやると

 

「うっせー、ボケ!」

 

と言いながら相手はニヤニヤと笑っていたが、しつこく体を寄せてきた。

 

(いい加減にしやがれ!)

 

と爆発しそうになったところで、悲鳴のようにホイッスルが高らかに鳴り響いた。押取り刀でレフェリーが走っていくその先では、なんとゴトーと敵のDFが互いのユニフォームを掴み合い、今にも殴りかからんばかりの一触即発のムードで睨みあっているではないか!

 

高々と上がったレフェリーの右手には、レッドカードが握られていた!!

 

「両者、退場ッ!!!」

 

ゴトー、まさかの退場!

 

「ちくしょー。テメーのせいだ!」

 

「なに言ってんだ、オメーが先にちょっかい出したんだろ!」

 

納得のいかない両選手は、遂に小突き合いを始めた。

 

「コラ!

止めんと、今後の試合を没収するぞ!」

 

とレフェリーが激怒し、ドージマと相手チームのキャプテンが慌てて割って入る。

 

「ゴトーよ、やめんかい!」

 

と、珍しく血相を変えて怒鳴るドージマの迫力はヤクザ顔負けだったが、完全に頭に血が上ってしまったゴトーが収まるはずはない。

 

「あまりにも穢ねーだろ、こいつら!

レフェリー、ちゃんと目ン玉開けて見てんのか!」

 

「なんだ、その口の聞き方は?」

 

と、ムッとするレフェリー。

 

「オイ!

オレの声が耳に入らんのかい!」

 

と、186cmのドージマの巨体が、ゴトーに詰め寄った。

 

「わかったよ!

とっとと消えりゃいーんだろ、消えりゃあよ!」

 

この大男2人の激しいやり取りには、敵も呆気に取られていた。

 

「ゴトーよ!

絶対に勝つから、次まで待ってろ・・・」

 

去っていくゴトーの寂しそうな背中に声を掛けると、ゴトーは向こう向きのままで片手を挙げて応じた。

 

「レフェリー!

相手の反則行為をしっかり見てください!」

 

とドージマが申し入れると、レフェリーは少し頷くように顎を引き、敵のキャプテンを呼んだ。

 

「キミら、ラフプレーも、ほどほどにしとけよ。これからは見つけ次第、1発退場だからな!」

 

と、厳重注意をした。やはり、それまで感じていたように、ゴトーやドージマも同じように相手DFから、反則紛いのラフプレーに悩まされていたのである。もっとも群雄割拠の「全国」を経験してきた相手の選手らにとっては、或いはこのくらいガチガチ当たってくるのが、当たり前だったのかもしれないが。いずれにしても『A高』の誇る3トップのうち、最も短気なゴトーが遂に敵の仕掛けた「トラップ」に見事に嵌ってしまった。

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