大学受験を間近に控え、3年生のクラブ活動が終了となった。
この浮いた時間は、受験勉強に充てるのが受験生としては本道なのだろうが、にゃべにとっては、またとない自由時間の海である。
(この余った時間で、何をすべきか?)
と思案の末、自動車学校に通い免許を取ってしまおうという結論に至る。仲の良かったムラカミとシゲオは、どちらも既に夏休みに免許を取得していたため、一人で学校帰りに自動車学校に通う事になると思ったが、ゴトーが
「オレも行くぜ!」
と便乗してきた。
地元で有名な、合格率の高い自動車学校は『A高』のすぐ近くにあった。運動神経の発達した2人が競うようにして、実技ではうるさ型の教官とケンカしたりしながらも、平均を遥かに上回り1ヶ月も経たずに、学科・実技試験ともに1発合格で早々の免許取得となった。
免許取得後は、かねて待望していたゲーセンに通い詰めるのが日課になったものの、一緒に行っていた友人たちは
(そろそろ受験の準備をしないと・・・)
と、櫛の歯が欠けるように減って行った。
一人でゲームに熱中する日が続いたが、次第に周囲が中学生ばかりという状況に気付くと虚しさを感じゲーセンからは足が遠ざかる。
(さて・・・となると、この有り余る時間の海を、どう過ごすべきか・・・)
とはいえ貧乏学生だけに、金のかかる娯楽に手を出せるわけもない。かくして「読書三昧」に落ち着くことに。元来が読書家であっただけに、中学生時代から有名どころは読み漁っていた純文学やミステリー、SFなどのエンターテイメントは一旦「卒業」しており、このころは哲学など思想系に興味を持ち始めていた。
入門編とも言えるプラトン(ソクラテスの口述系を含む)にすっかり夢中となり、続いてアリストテレスなど「定番」のギリシャ古典哲学を読み漁るだけに飽き足らず、その触手はギリシャ神話、ヘブライ神話を経由して最後に古事記に辿り着く。
数か月の間に色々と渉猟した中でも、特にプラトンの筆によるソクラテスの生き様や「イデア論」、「想起説(アナムネーシス)」、「エロース(愛)」、「良く生きる」などの世界にすっかり嵌り
(2500年も前に、こんな凄いことを考えた人物がいたとは・・・)
と、感銘を受けた。
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