全校生徒を前に、雛壇に上がり
「みなさんの応援のお蔭で、最後に一番いい内容と結果を出すことが出来ました」
と、相変わらず謙虚で言葉少なに挨拶を終えたみどり。この時に記録したみどりのタイムは、サッカー部エースの自分がスポーツテストで計測した時のタイムより早かった。 同じサッカー部のゴトーも自分より少し速かったが、調子の良い時でもみどりのタイムに及ばない。長距離は苦手なにゃべとはいえ、男子の中でもかなり早い方だった事を考えれば、このみどりのタイムが、女子としてはいかに化け物じみたものかわかる。おそらく男子に混ざっても、確実に10番以内には入っていただろう。
しかも、このみどりの場合は中長距離だけでなく、100mも12秒台、200mが25秒台と、女子としては短距離選手並みのタイムを叩き出しており、走り幅跳びでも当たり前のように毎回5m台を記録していた事からもわかるように、総ての面で傑出していた筋金入りのスポーツ少女であった。
カオリとみどり。この2人が『A高』の2大スターとして皆の人気と尊敬を集めたのは、その見事な競技力もさることながら、あれだけの実績を積み重ねながらも終始それを鼻にかけるような、増長した態度がまったく見られなかったことに尽きる。カオリは気の強さが取り沙汰されたように、感情の起伏が激しいところはあったようだが、みどりの方は走っている時の殺気立った雰囲気とは打って変わり
「普段の教室内では、いるのかいないのかさえわからないくらい、大人しかった」
と評されたくらいで、国体入賞という偉業を成し遂げた後も、その態度に些かの変化も現れなかった。
多くの事例にみられるように、みどりの才能も子供の頃から傑出していたらしく、小・中学ともに最初の授業で体育教師の熱視線を集めた、というエピソードは有名だった。「教室では、殆ど存在感がない」と言われたみどりだが、ひとたびグラウンドに出れば、その存在感は誰の眼にも際立つものだった。
彼女ほど素人目にも明らかに才能を感じさせる存在は、極めて稀である。入学して間もない頃の事を、今でも鮮明に思い出す。
「有名な陸上部のノムラというのは、どの女だ?」
とサッカー部の練習中にゴトーらと連れ立って、こっそり陸上部の練習を見に行った。無論、中学が別なので、これまで誰も見た事がなかったにもかかわらず、遠目からでも一目で
「あれに違いない!!!」
と皆で声を揃えたくらい、その才能は圧倒的に輝いていた。
多くの部員に混ざり、練習前のアップをしていたところだったが、そんななんでもない動きを見ただけでも、まるで全身がバネのようで並々ならぬ運動神経に3人とも見惚れてしまったのである。
「ありゃ、全然モノが違うな・・・」
「うむ・・・こんなイナカの公立に置いておくのは、実に惜しい」
と、その野生動物のような鋭くもしなやかな体の動きに、同じように見惚れていた。
国体で見事な入賞を果たしたみどり。インターハイで活躍した美少女・カオリとは違い、十人並みの容姿に中肉中背(ただし、かなりの筋肉質だが)と、外見はどこにでもいそうな女子高生というタイプだけに、前年のインターハイ後に起こった「カオリ・ブーム」ほどではないにせよ、それでもかなりの注目を集めた。
元々、殆ど無名の存在から、インターハイの直前に彗星の如くに現れたカオリとは違い、スポーツ万能のみどりは春の陸上競技会や秋の文化祭の大運動会、さらには前年冬のマラソン大会などでは常に華々しい活躍を見せていたし、スポーツテストでも唯一「特級」を獲得していた事などもあり、当初から知名度は誰よりも高かった。その分、どうしてもカオリほどの鮮烈な印象にならなかったのは、致し方ない。
こうしたスポーツの一流選手というと、カオリに代表されるような「気が強く強く負けん気の塊」のようなイメージだが、みどりの場合は内面はともかくとして非常に穏やかな性質だったようだ。カオリと同じく、みどりとも同じクラスになる運に恵まれず、殆ど接触のないままに終わってしまったのは、実に惜しまれる。
前年はこの2人、そしてこの年もみどりと同じクラスだったゴトーによると
「どっちも、教室ではおとなしいぞー。つーか、まったく存在感がねーと言うべきか・・・」
などと繰り返していた。
「ヨシノは練習疲れでいつも眠そうにしてるし、授業中は蛻の殻のような感じだな。ノムラは案外に真面目そうだったが、存在感がねーのは似たようなもんだ」
と好色オトコらしく、鋭い分析をしていた ( ´艸`)ムププ
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