2005/04/18

終戦(高校サッカー選手権大会part9)

遂にベスト8まで辿り着いた。迎えた相手は前年優勝校で、この年も優勝候補本命と目される私立の『C高』だ。サッカーだけでなく様々なスポーツの大会で、全国大会の常連となっているスポーツ超名門校である。

 

中学卒業の年に、ドージマもこの高校から「推薦入学」の打診を受けていたことからもわかるように、各中学の優秀な人材を「青田買い」でかき集めているのが、この種の私立校だ。それだけに、公立校のエースクラスの人材がベンチを温めていたりすることも、決して珍しくはない。

 

「間違いなく、県内で一番強い相手だが、それとやれるのは楽しみじゃねーか!」

 

というキャプテン・ドージマの気合とともに、いよいよベスト4を賭けた戦いが火蓋を切った。

 

さすがは「タレント集団」と言われただけはあって、普通のチームであればエースを張っていてもおかしくないような選手ばかり揃っている。入学偏差値が最底辺に近いことから、この『C高』の学生といえば「全国レベルのスポーツ選手か極道か」と言われていたが、この日の選手もリーゼントや赤髪、或いは金髪の長髪を靡かせ、おまけに平均身長もかなり高いだけに、まるで外国チームを相手にしているような錯覚に陥りそうになった。

 

そして、その実力は「優勝候補の本命」と称されるに相応しく、これまで戦ってきたどの相手より、間違いなく格段に強かった。ボールもなかなか持たせてもらえず、ようやく持ったと思うといつの間にか直ぐに奪われてしまっていた。これまでにない苦しい戦いで、ボール支配率は2割がいいところだったろう。殆どチャンスらしいチャンスがないまま、1点をリードされて前半を終える。

 

「さすがにつえーわ」

 

と言うゴトーに

 

「そりゃ、そんなのばかりかき集めとるんだから、当たりめーじゃん」

 

と、にゃべが応じる。

 

「後半も厳しい戦いになるだろうが、必ずチャンスは来る。それまで耐えぬいて、少ないチャンスを確実にモノにするのだ!」

 

と、ドージマがいつも以上の喝を入れ、後半を迎えた。ハーフタイムに練った様々な作戦を試みるものの、どれも局面打開には至らぬまま、痛い追加点を許し「0-2」となった。

 

3年生になってからは、インターハイでのPK敗戦を除いて「9勝4分」と13試合無敗が続いていたが、その間には何度か崖っぷちに追い込まれながら奇跡のように這い上がってきたし、その都度実力がアップしてきた手応えもあった。が、この相手に限っては確実なレベル差があり、まったく手も足も出ない状況に追い込まれていた・・・2点差となってから『A高』のゴールデントリオには、それぞれ2人ずつのマークが付き、身動きが取れない状態となってしまった。

 

『A高』にとってはジリジリとした時間が続く中、時計の針は容赦なく時を刻み、気付けばもう残り時間も僅かとなっていた。依然として8割方ボールを支配している『C高』は、早くも勝ちを意識して大きな展開でパスを回しながら、終了の笛を待っているようであった。その余裕の中に生じたほんの僅かな隙を、副将のオカは見逃さなかった。狙っていたロングパスをカットすると、懸命に走る。ここから一気のカウンターで、ムラサキ、ドージマと綺麗にパスが渡ると、ドージマが重戦車のような迫力のドリブルで切り込みを見せた。にゃべが囮となり敵の目を惹きつけておき、駆け抜けたゴトーへドージマのパスが通ると、ゴトー渾身のミドルシュートがゴールを揺らした。

 

1点差!

 

それまでの「完敗ムード」は一変し『A高』だけでなく、さしもの『C高』の方も一気に緊迫感を増し、みな表情が引き締まった。が、残り時間は23分という、ギリギリの状況は変わらない。ゆっくりと、時間をかけて蹴られたゴールキック。空中戦からこぼれたボールをまたしてもオカが拾い、先ほどと同じようにムラサキ、ドージマとパスを回す。まるでVTRを見ているかのような展開で、この辺りの副将のオカの執念は鬼のようであった。が、今度は相手のDFがイエローカード覚悟で実に巧妙に体を入れ、フリーキックに局面が変わった。

 

時間的にも、恐らくはこれがラストチャンスと思われた。押っ取り刀で、ゴール前へと走るにゃべとゴトーの両エース。そして考える間も惜しむように、ドージマの右足から放たれたボールは、それでも測ったように絶妙のコースへ来た!

 

ノーマークだった2年生タローの狙い澄ましたシュートは空振りとなり、相手選手の足に当たって高く跳ねあがった。ヘディングで戻ってきたボールにゴトーのボレーシュートが炸裂したが、これはゴールに詰めた敵の選手が体を張って止め、今度はにゃべのところへチャンスボールが来る。渾身のシュートは、キーパー執念のジャンピングセーブで弾かれた。こぼれ玉を制したオカからパスを受けたタケがシュートを放つが、これはキーパーが正面に入りガッチリとセーブした。

 

ピーーーーーーーーーーッ

ここで、試合終了!!!

 

80分の試合の77分までは、ほぼ一方的な相手ペースだったが、残り3分のこの怒涛の攻め。

 

「『A高』、よーやった!!」

 

と、観客席から称賛の拍手も起きた。

 

「やるじゃねーか!」

 

あわや奇跡の同点劇かと思われたものの最後は一歩及ばす、敵のキャプテンからも称賛され、にゃべらの高校サッカーは終幕となった。

 

「オレたち3年生のサッカーは、今日で終わった。今後も顔を出すが、主役はあくまでもオマエら(12年生)だから、精々邪魔にならんよう気ぃつけんとな・・・」

 

と、後輩たちに別れの挨拶をするドージマに

 

「一番邪魔になるのは、どー見ても(186cm84kgの)オマエだろーが!」

 

と、奇しくも口の悪いにゃべとゴトーが2人で声を合わせて爆笑を誘ったが、大口を開けて笑い転げる後輩たちの輪に囲まれながら、力のない引き攣った笑いを浮かべ、寂しそうな3つの背中が去って行く・・・

0 件のコメント:

コメントを投稿