県大会初戦は、思わぬ大荒れの試合となった。両校1人ずつの退場によって、レフェリーからラフプレーをきつく注意された相手は、一旦は大人しくなったかに見えたが、リードされる展開となってまた激しく当たってきた。ゴトーのように、相手の胸倉を掴んで殴り飛ばしてやったらどれだけ爽快かと思ったが、ゴトーが退場したこの上、自分までが退くわけにはいかぬ。それでなくともエースのゴトーと相手のDFでは、こちら側の代償があまりにも大きいのだ。
にゃべとドージマの攻撃の芽は、反則すれすれの狡猾な相手のマークに封じられると同時に、相手も点が取れずに前半を終えた。ハーフタイムで話し合った結果、ドージマがゴトーの代わりにトップに上がることになった。
「トップに来ると、ガチガチやられるぞ」
と言うと
「もう、とっくにやられとる・・・」
と、ドージマが笑った。
「いいか、にゃべ!
しつこいが、絶対にキレるなよ。キレたら、総てが終わりだからな・・・」
「わかっとるわ。終ってからはともかく、ゲーム中はなんとか耐えるさ」
「終ってからもだ!」
まったく、この男の忍耐強さは天下一品だ。あれだけの体格だから腕力は相当に強いのは間違いないが、あれほど当たられながらゲーム中はまったく、顔色ひとつ変えない。ゴトーの退場の場面を除いては・・・さしもの「鉄面皮」も、ゴトーの退場を聞いた時はショックの色を隠せなかった。
(あの時のヒロの顔・・・ヤツのあんな顔だけは、二度と見たくない・・・)
と、冷静さを誓うにゃべ。
にゃべ、ドージマという初めての2トップとなった後半だけに、活性化が期待されたものの、そう簡単な敵ではなかった。相変わらずラフプレーは酷かったが、勿論単にラフなだけでなくそれなりの技術や力量を伴っているだけに、余計に始末が悪い。またリードされているだけに、後半は徐々に相手の攻撃時間が長くなってきた。
こうしてジリジリした展開が続く中、20分を過ぎたところで相手にセットプレーのチャンスが訪れる。例によってポジション争いで激しくやりあっている時、背後から蹴りを見舞われたにゃべが遂にキレタ!
「このヤロー!」
振り向いて蹴りを返すと、周囲の選手がわっと集まってきて、またしても一触即発だ。狂ったようにホイッスルを鳴らしながら、レフェリーが全力で走ってきた!
「退場だ、退場だー!!!」
しかし、レッドカードを突きつけられたのは、相手の選手だ。
「アイツが先に蹴ってきたんだ!」
という相手に、レフェリーは
「嘘をつくな!
オマエが仕掛けたんだろう。ちゃんと見ていた」
と言うと、厳しい表情で今度はこちらに向き直った。
(来るか・・・?)
と観念した目の前に出されたのは、イエローカードだった。
「キミも、これ以上、挑発に乗らないように!
次はレッドだからな!」
「レフェリー、案外ちゃんと見てくれてるぞ・・・」
と、ドージマが走りながら、さりげなく耳打ちしていった。
(だから、相手の挑発には乗るな)
という言葉を飲み込んで。ともあれ、先ほどとは攻守を変えてのセットプレーだ。
ゴール前に上がったボールを、にゃべがダイナミックなオーバーヘッドで豪快に弾き飛ばし、コーナーキックに変わった。コーナーから、絶妙のボールがゴール前に飛んで来る。相手のエースと競り合ったボールはドージマの頭を掠めて転がり、ちょうどそこに詰めていた選手が放ったシュートが、ケントの手を僅かに掠めてゴールへと吸い込まれていった。
同点!
勢いを得た相手の攻撃は止まらない。一人少ない9人となったが、ここから相手は強豪の底力を発揮し、残り15分ほどは終始相手のペースとなり怒涛の攻めが続く。人数の多さでなんとか凌ぎきり、引き分けに持ち込むのが精一杯かと思われた。
繰り返すが「PK戦」と言えば、あのインターハイの「悪夢」の記憶が鮮明だっただけに、なんとか80分の中で決着を着けたいところだったが、既にロスタイムに入っているかと思えた。
(もう終わりか・・・?)
と誰もが思っていた時間帯だけに、必ずしも「魔が差した」わけではないかもしれないが、そこに一瞬の隙が生まれた。
(行くぞ!)
アイ・コンタクトをして、一か八かに賭けて一気に突っ走るにゃべとドージマ。パスを受けたにゃべが、ドリブルでゴール近くまで走る。一人少ない相手は最早にゃべ、ドージマのスピードに着いてこられる者が居ない。
血相変えた3人が怒涛のように寄せてくるのを見たにゃべが、がら空きとなった絶妙のポジションのドージマにパスを送ると、間髪入れずドージマのシュートが炸裂した。
遂に勝ち越し!
「おっしゃー!
でかしたぞー、ヒロ!」
「ナイスパスだ、にゃべ!」
と喜ぶ2人を尻目に、素早くボールをセットした相手が、やけくそ気味の特大ゴールキックを放ったところで、ホイッスルが高らかに鳴り渡った。
土壇場、ロスタイムでの劇的な勝利!
しかもにゃべ、ドージマのゴールデンコンビで切り崩し、全国大会出場経験のある強豪を破るという快挙だ。
「ちくしょー、オマエらばっかり、えーとこみせやがって!」
喜びながらも悔しがるゴトーは、形容しがたい複雑な表情で泣いていた (TT▽TT)
「今日は、えー教訓になったろーが!
いかに実力があろうが、ピッチに立たんことにゃ話にもならんぞ」
と言うのは、ドージマだ。
「ホント、オマエはたいしたヤツよ。あれだけの挑発にも、平然としていられるとはな・・・」
というゴトーに
「内心、穏やかじゃねーがな・・・冷静に燃えろと言ったろ。正直、オマエが抜けてきつかったんだぜ・・・」
「う・・・ 仕掛けられたとは言え、簡単に乗せられてすまねえ」
と、珍しく反省のゴトーだ。
「ま、済んだことをゴチャゴチャ言っても、しゃーねー。次に倍返ししてくれりゃあ、文句はねーよ」
とキャプテンらしいセリフで締めくくると、ドージマがゴトーの肩を叩いた。
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