2005/04/11

サッカーの素晴らしさ(高校サッカー選手権大会part1)

高校サッカー生活の掉尾を飾るのが「全国選手権大会」だ。

 

無口で、あまり長い演説は好まないキャプテンのドージマが、珍しく大会前日に檄を飛ばした。

 

「泣いても笑っても、これが最後の戦いだ。皆、これまで最大限の努力をしてきただろうが、いよいよその成果をぶつける時が来た。結果はどうあれ、高校生活最後の戦いだ。悔いの残らぬよう、全力で暴れてやろうじゃねーか!」

 

「『結果はどうあれ』ってのは、気に食わん!

結果は大事だぞー」

 

にゃべが早速茶々を入れると、すかさず

 

「そうそう。最高の結果を残すために、これまで頑張ってきたんだぜ」

 

と、ゴトーが便乗した。

 

「さすがは、期待通りの突込みよ。オマエらの言う通り、最高の結果を残してやろうじゃねーか!」

 

ニヤリと不敵な笑いを浮かべるドージマ。

 

「で、オマエの言う『結果』ってのは、なんだ?」

 

「言うまでもねー。狙うは、全国大会出場よ!」

 

まったく、こんなに素敵なキャプテンが、どこにいるだろう? (*▽´*) ウヒョヒョヒョ

 

地区予選1回戦は前年同様シードされ、2回戦から登場した『A高』。いきなりハットトリックという「結果」を出して見せたのは、やはりドージマだった。ゴトーも2得点、にゃべも得点を上げトリオが揃い踏みで「7-0」の圧勝という、これ以上ない好スタートだ。

 

「今日は足慣らしだ。明日の相手は、今日のようには行かんからな。しっかり気合を入れ直すぞ!」

 

と、ドージマ。その3回戦は、中学同窓のイモのいる『A工高』戦である。

 

昨年も、同じこの「勝った方が県大会出場」という3回戦で、ゴトーの2ゴールなどで破った相手だ。前年はサブだったイモが、今年はレギュラーでスタメン出場は当然とはいえ、何故かディフェンダーでの出場だった。

 

「オマエ、いつからディフェンダーになったんだ?」

 

「こっちでは、最初からDFに回されたからな・・・それよか今日はジョーク抜き、マジでオマエに着くぞ!」

 

「オイオイ、マジかよ・・・やり難いな・・・」

 

「友達だからって、容赦しねーからな。今年はウチが県大会に行く番だから、今日はガンガン行くぜ」

 

と、イモは照れくさそうに笑っていたが、その言葉に嘘はなかった。かつての親友イモの長身にピッタリと着かれたにゃべは、思わぬ苦戦を強いられる。勿論、もう一人のエース・ゴトーと、司令塔とはいえゴールへの嗅覚は人一倍のドージマにも、厳しいマークがピッタリと着いている。前年とは見違えるように攻撃力も増した『A工高』に先制を許し、りードされたまま前半を終えるという予想外の大苦戦でハーフタイムに。

 

「イモのマークは、さすがに厳しいな。相変わらず、いい味出してやがる」

 

と、ドージマが笑った。中学の地区大会決勝では、イモと激突して瞼の上を縫う負傷をしたドージマにとって、イモは忘れもしない因縁の相手だ。その目の傷は、もう痕跡も完全に消えていたから、なんという逞しさか。

 

「まあ、後半になんとかするさ・・・」

 

とはいえ、イモの体力自慢は中学時代から誰よりもよく知っているにゃべだ。後半のスタミナ切れを期待する気持ちなど毛頭ない。あくまで、正面突破あるのみ。

 

もう一人のエース・ゴトーと、キャプテンのドージマにも、それぞれ同様に中学時代の同僚が敵のDFとなって、徹底マークに着いていた。

 

「向こうの監督、なかなかやってくれるじゃねーか。昔の仲間をマークにつけるとはよ。ウチのは、お飾りだけどなー」

 

というゴトーに

 

「まあ、その分こっちも相手のことは、よく知ってるってわけだ」

 

と、応じたのはにゃべだ。『A高』は自由な校風が持ち味だけに、生徒会やクラブ活動は基本的に「生徒の自主性」に任される。サッカー部も、ベンチ入り選手や選手交代は監督の仕事だが、試合中の戦術など殆どをキャプテンのドージマに任せ、監督は細かいことは言わない方針で徹底していた。勿論、ドージマという安心して任せることのできる、しっかりしたキャプテンの存在も大きかったが。

 

後半に入ると、最も運動量の多いドージマに着いていたDFに、一瞬の隙が出来た。そこを見逃さず、放ったシュートが決まって同点に追いつく。前半は、殆どシュートらしいシュートを打てないまで完璧に封じられたにゃべとゴトーも、徐々にチャンスを作り始めていたが、どれも決定打には至らない。そのような膠着した状況で刻々と時間が流れ、そろそろ「魔のPK」が頭の中にちらついて来た。

 

夏のインターハイでは、地区大会5勝1分け、県大会1勝1分とあわせて「6勝2分け」と8試合一度も負けないままに、PK決着で破れてインターハイを終えなければならなかった悔しさを味わっただけに「PK決着だけはゴメンだ!」という気持が強かった。 ゴトーやドージマら、他のイレブンも思いは同じだったに違いない。一方、イモら相手イレブンにとっては、同じ市内の学校で中学時代の同僚が多いだけに

 

「去年に続いて、やられるわけにはいかん!」

 

という思いは一層、強かっただろう。

 

そんな執念を感じさせるイモの執拗なマークに遭い、シュートのチャンスも悉く潰されていた。

 

「クソ!

こんなに手こずるのは、初めてだぜ・・・少しはチャンスをくれよ」

 

「やなこった。行きたきゃ、実力でオレを抜いて行くんだな」

 

と、イモが不敵に笑った。気付けば、後半も残り僅かだ。

 

(いよいよPK決着か・・・)

 

と嫌な予感が脳裏をよぎり始めたところで、ドリブルでDFの壁を突破して来たドージマから絶妙のパスが送られて来た。と同時に、鬼のように決死の形相で挑んで来たイモが眼に入り

 

(こりゃ、マズイ・・・)

 

一か八か、乾坤一擲一撃必殺とばかりに放ったミドルシュートが、見事ゴールに突き刺さった。

 

「オッシャー!

にゃべ、デかしたー」

 

と、珍しく大喜びするドージマ。それだけ重かった、この1点だ。

 

「クク・・・あんな距離から決めてきやがるとは・・・やられた・・・」

 

と、天を仰いだイモ。それでも最後まで諦めない執念の相手は、残り3分で2本のシュートを放つチャンスを作り、あわや同点かというピンチを迎えたが、インターハイから一気に成長したDF陣とキーパーのケントが体を張って守りきって試合終了!

 

「いやー、いいゲームだったな・・・よく頑張った」

 

と、かつての級友イモの健闘を讃えると

 

「こうなりゃ、必ず全国大会まで行ってくれ!

オレも応援に行ったる」

 

というイモ。因縁の相手ドージマにも

 

「よう、相変わらず、でけーな。県大会も頑張ってくれ。オマエラなら、優勝も夢じゃねーだろ」

 

と声を掛けたその表情は、敗者とは思えぬ清々しさだ。

 

「オウ、ありがとうよ。今日は、どーしてもにゃべに決めて欲しかったんでな・・・オマエのガッツを貰っていくぜ」

 

と、応じるドージマ。中学大会決勝では、大詰めの大事な場面で激突し途中退場に追い込まれたドージマと、そのチームメイトに脅されたイモという「因縁の2」が、なんのわだかまりもない晴れ晴れとした笑顔で握手を交わしながら、互いの健闘を讃えあっている。そんなツーショットを眩しく見ながら

 

(やっぱり、スポーツはいいな。サッカーって最高だな)

 

と、全身で幸せを噛み締めるた。

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