2005/04/18

奇跡の勝利(高校サッカー選手権大会part8)

ドージマとの出会いは、中学2年生の時の地区大会に遡る。当時のドージマは、決勝の相手『A中』のFWだった。この年は3年生のキャプテンとドージマが『A中』のFWだったが、当時14歳だったドージマは既に身長が180cmを超えていた。3年生のクロガミの方は、さらに大きく185cmくらいあった。初めて間近に見た2人は「山」か「岩」のように大きく逞しく、中学生とは思えない迫力に正直なところ恐怖すら感じたものだ。

 

が、真の恐怖は2人の動きを見た時であった。ただ単に「デカイ」だけでなく、スピーディな動きとパワー、そして高度な技術。それまで、密かに持っていた

 

(オレより上手いのはいない)

 

という自負を、まさに粉々に打ち砕くものだった。

 

試合は終始相手に圧倒され、いいところのないままに「0-5」の完敗に終る。ハットトリックを記録した3年生のクロガミは卒業していったが、それから渋る『A中』を拝み倒す形で、なんとか再戦に漕ぎ着けた。が、今度はドージマに4得点を許し「0-6」と、さらに酷い完敗で屈辱の上塗りとなった。

 

これがサッカー少年にゃべにとって初の「トラウマ」だ。

 

(サッカーなんて、辞めようか・・・)

 

といった試練を乗り越え、翌年の大会も同じ決勝でぶつかり、今度は「3-1」で勝って遂にリベンジを果たした。試合中に不運なアクシデントで、瞼の上を負傷したドージマを見舞いに行き、初めて胸襟を開いて語り合ったことで、彼の素晴らしい人間性に触れたことで益々、サッカーにのめりこんでいく。その時点では、彼の進路は聞いていなかっただけに『A高』に入学し、サッカー部であの大きな姿を見た時は驚いたものだ。

 

その時のドージマは、さらに大きくなって185cmを超えていた。かつて夜も眠れぬほどに苦しめられた「宿敵」が、今度はチームメイトになるという不思議な巡り合わせだ。

 

(この男がチームメイトとは・・・こんなに心強いものはない・・・)

 

と喜んだのも束の間、その前の現実は「ポジション争い」という別の戦いが待っていた。

 

そうした様々な経過を乗り越えて、今はドージマのPK成功を祈るにゃべが居た。固唾を呑んで見守るにゃべ、ゴトーら『A高』イレブン。

 

(ヒロよ・・・頼むぞ!)

 

という気持ちと

 

(ヒロで負けなら、仕方ない・・・)

 

という気持ちが錯綜する中

 

「決めれば同点、外せば即敗戦」

 

という途轍もないプレッシャーを背に、いつもと変わらず落ち着き払って見えるドージマがボールをセットする。不思議なことに、自分が蹴る時は間違いなく成功すると信じ切っていて、まったく緊張感がなかったのに、他人のキックの時には緊張する。特に、このドージマの時に至っては

 

(ここでヒロが失敗なんて、ないよな・・・頼むから、決めてくれ)

 

などと珍しく神頼みに近い心境で、心臓がバクバクと脈打っていた。

 

「高校サッカー生活の総決算」とばかりに、ドージマらしく思い切り良く放たれたボールは、カッと見開いたにゃべの目の前で唸りを上げて飛んでいった!

 

蹴った瞬間

 

(上がり過ぎたか?)

 

と一瞬、目を瞑りたくなったが、大歓声に気付けばボールはゴールネットのギリギリ最上部に突き刺さった!

 

「オッシャ~~~~~~!」

 

歓喜に沸く『A高』イレブン。

 

遂に、同点!

 

「いよー、さすがはヒロだ!

惚れ直したぜ!」

 

戻ってきたドージマに皆が声を掛けたが

 

「まだまだ・・・勝負はこれからだ!」

 

と、当の本人が最も落ち着いてガッツポーズすら見せないのは、いつものことながら驚かされる。

 

ともあれ、2人揃って外したにゃべとゴトーは、誰よりもドージマに感謝だ。

 

続いて6人目。この異様な雰囲気にすっかり呑まれたか、はたまた連鎖反応か『T高』は3人連続となる失敗に終わり、遂に「王手」が掛かった。が、連鎖反応は味方にも伝染したか『A高』6人目も失敗し、依然「3-3」

 

7人目・・・4人目から3人続けて外していた『T高』は、ここはようやく決めて「3-4」となり『A高』に、またしても「外したら負け」という極限状態が訪れる。が、『A高』7人目の副将オカは、落ち着いて決めて「4-4

 

『T高』は8人目も決めて、またしてもプレッシャーが掛かったが『A高』も負けじとタケが決めて「5-5」だ。

 

『T高』は9人目。思い切り良く放ったシュートは、しかしゴールポストを叩いて失敗!

 

(ここで決めれば勝ちだ!)

 

という場面も『A高』9人目の2年生タローが大きく外してしまう。

 

こうして、遂に10人目まで来た。

 

(もう一度、回って来るか?

次にオレが決めて、この試合は終わりだ・・・よし、来い!)

 

と、にゃべも再び気合を入れ直し始めた。

 

コーナーを狙った相手のシュートを、ケントが見事に読んでセーブ!

 

盛り上がる『A高』イレブン。この勢いを得て登場した10人目、2年生のタコのシュートがキーパーの手を弾いた。キーパーの執念に勢いを失いながらも、ボールは転々とゴール転がり込み、遂に「6-5」で勝利!

 

まさに大死闘!

大会屈指の名勝負は、奇跡の大逆転PK劇で幕を閉じた。

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