前後の席の並びから、すっかり打ち解けた仲となった小夜子ちゃんと、連日会話が弾んだ。
ところが、ある日。
ちょっとしたことでケンカになってしまい、リコーダーで小夜子ちゃんのかわいらしい頭を叩いてしまった。
おそらく「女の子みたい」とかなんとか言われての事だったろう。
この頃は「女の子みたい」と言われるのが、殊のほか癪に障るところがあったのだ。
外見に似ず案外と気丈と思われた小夜子ちゃんが、突然泣き出してしまった ( ゜ ▽ ゜ ;)エッ!!
いつまでたっても泣き止まない小夜子ちゃんに、時折ヒステリーを起こす未熟な新米女教師の「発作」が大爆発!
「どんな理由があろうと、女の子に暴力は絶対にいけません!
オカドさんが許してくれるまで、謝り続けなさーい」
どの教師も「神童にゃべっち」に対しては「ハレモノ扱い」で、これまで叱られた記憶がなかっただけに、これは初めての苦い経験として記憶された。
かくて
「オカちゃん、ゴメンね」
と仕方なく謝り続けたものの、何故か強情な小夜子ちゃんは知らぬ顔で、ひたすら泣き続けるばかりだ。
(このまま謝り続けても、泣き止みそうにないし・・・参った参った。
一体、どうすりゃいいの? (;-_-;) ウーム
みなに注目され、どーしたものやらと困り果てている絶体絶命のピンチに助け船を出してくれたのが、誰あろうマサ君だった。
「オイ、オカドー。
にゃべもずっと謝ってんだし、いつまでも泣いてねーで、もういい加減に許してやれよー。
じゃないとオレ、にゃべと一緒に帰れねーじゃん・・・」
このマサ君のフォローによって、なんとか事なきを得た神童にゃべっち。
マサ君とは、家が同じ方角とはいえ普段は一緒に帰ることはなかったが、この機知に感謝して一緒に下校する成り行きとなった。
「今日は、マサのお蔭で助かったよ。
実際、オマエが助けてくれなかったら、ずっと泣き止みそうになかったし・・・」
1年生の時から、ずっと気になっていながら、これまであまり話す機会がなかったマサ君に礼を言うと
「なーに。
アイツも意地になって、オマエを困らせようとしてただけだろ・・・なんか、きっかけが欲しかっただけさ・・・」
マサ君の状況分析は、さすがに鋭かった。
(実は、オレもそう思ってたんだ・・・)
以心伝心。
顔を見合わせて笑うと、突如として堰を切ったようなマサ君の思わぬ独演会が始まった。
「にゃべ、1年生の時、オレと同じクラスだったこと憶えてる?」
「ああ、よく憶えてるよ・・・」
男子からは「にゃべちゃん」と呼ばれていたから、こうして「にゃべ」と呼び捨てにするのは、当時の男子ではマサ君(クラスは違ったが、ムラカミ君も)だけだったが、決して悪い気はしなかった。
「オレ、計算には自信があったのに、いつもオマエがメチャクチャはえーからさ。
『今日こそは』って思っても計算が終わって顔を挙げると、いつもオマエがもう手を挙げてるし」
西洋人形のような、クリクリとした愛くるしい目を輝かせて話すマサ君は、非常に魅力溢れる少年だった (゚ー゚*)
「学芸会だって、オマエが居なけりゃオレが王子様だったんだぜ・・・だからさ・・・今日はオレ、ホント言うと気分良かったのさ」
と、照れながら空を見上げるマサ君。
このように思ったことをハッキリと口に出すところも、引っ込み思案な子供の多い田舎の学校の中では、マサ君だけが際立っていた。
この「事件」を切っ掛けに、1年生の時から気になっていたマサ君とすっかり打ち解けられたのは、怪我の功名とはいえ願ってもない展開だった。
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