高校生活最後の夏休み。にゃべは親友ムラカミ、シゲオの2人を誘い、母の所有する海辺の別荘へと繰り出す事になった。
内海海岸は愛知県知多半島の最南端にある、有名な海水浴場である。海のない名古屋や岐阜の住人が遥々やってくる事で毎年夏は大賑わいを見せるが、その日本一美しいといわれる白砂の海岸沿いには、かつての金持たちの別荘が今も軒を並べる。かつては名古屋のお屋敷町に、社長令嬢としておさまっていたにゃべ母の相続した別荘も、この海岸沿いに鎮座ましていた。
子供の頃、名古屋から遠路遥々この別荘を利用しに来た、にゃべ母の回想によれば
「田舎の人たちってみんな顔見知りばかりだから、私たちが別荘へ行くと地元のオバサンたちから
『アンタ、どこのコ?』
と、行く先々で訊かれたものよ。それで一泊して、次の日になると
『アンタ、別荘のコかねー。ほーほー』
なんて調子で、みんなに知れ渡ってんだから。何が『ほーほー』だか知らないけどさ・・・ホント田舎の人たちの情報網には、恐れ入ったものだわ・・・」
といった話を、子供の頃に訊いた記憶がある。
以来、長い間使われていなかったこの別荘を喫茶店に改造し、海水浴客向けに「ミーちゃんの店にしようか?」といった話も出た事があった。
「マッハは浪人中の進学塾や私大の学費、また東京生活に掛かる仕送りなどで随分とお金が掛かったけど、それに比べるとミーは短大だけ(中退)だったし。あの使っていない内海の別荘を喫茶店に改造して、あの子にやらせても良いかもね」
この当時、短大を中退したミーちゃんは、近所の喫茶店でバイトをしていたが、個人の小さな店だっただけに厨房に立つ機会も多く、その頃にはパスタからサンドウィッチまで一通りは客に出せるくらいまで、調理の腕前も上達したと自負していた。それだけに『自分の店』を持てるこの提案には、一時はかなり乗り気だったようだが、田舎住まいなど様々な事情により、この話は結局実現しなかった。
そんなこんなで未だ、天下の内海海水浴場にポツンと残されたまま、利用される機会のなかった別荘である。
「アンタも来年からは、どこにいるんだかわからないし、一度あの別荘にでも泊まって来たらどう?
なんなら、友達を誘っても良いんだよ。ただし、あんまり汚さないように・・・」
という母の勧めを受け、気の許せるムラカミとシゲオの親友2人を誘ったというのが、ここまでの顛末である。
こうして、大きなボストンバッグを抱えた男が3人。綺麗に贅肉を殺ぎ落とし、一見痩せ型に見える筋肉質な美しい体型はサッカー少年のにゃべ。中学からは、サッカー部の花形センターフォワードを務める傍ら、休日には自己流の少林拳と空手にも勤しむ、我流武道家でもある。
身長はにゃべより僅かに低めながら、体重が70kgくらいはありそうなのがシゲオだ。 こちらは、弓道少年。一見したところ、3人の中ではもっとも大きく見えるが、筋肉も付いている代わり脂肪も少々ある。
3人の中で、最も小柄なのがムラカミだ。こちらは小学生時代から、少年野球とボーイスカウトで鍛えたスポーツマン。そして中学、高校はバスケットボールで活躍し、その筋肉質で骨太な身体はなかなか逞しかった。
さて、このいずれ劣らぬ(?)スポーツマン3人。名鉄内海駅を降り、真夏のギラギラ照りつける太陽をものともせず(実際は、アシがなかっただけだが)、テクテク歩く事およそ20分。ようやく、お目当ての海水浴場に到着した。
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