「PKは、オレが最初に行くぞ!」
「なんだと!
トップバッターは、オレに決まっとるだろ!」
と互いに譲らず、じゃんけんで勝ったにゃべがトップに決まった。
言うまでもなく、一人一人の成功可否が大きく流れを変えるのがPK戦だから、トップは極めて責任重大だ。
「死んでも外すなよ!」
と言うゴトーの檄を背に
(今日は、オレだけが決められなかった・・・)
という悔しさをぶつけるように、思い切り蹴り上げたボールは風を切ってゴールに突き刺さった。
「オッシャー!
えーぞえーぞ!」
と盛り上がる『A高』イレブン。
が、続いて登場した『K高』の1人目も、落ち着いて決めイーブン。
次に行くと思われたゴトーは
「オレは後で行く」
と見せ場を待っていたようだが、2人目も両校ともに成功。
『A高』の3人目、副将のタケはコースがキーパーに読まれてしまい、まさかの失敗!
「どんまい!
相手にも、プレッシャーが掛かるはずだ!」
と期待したが『K高』の3人目は見事成功し、ここでリードを許す。
こうなると、俄然プレシャーが掛かる4人目。ここで失敗すると、一気に終ってしまう可能性もあるだけに責任重大だ。
「オレが行くぜ!」
と、この厳しい場面で自ら火中の栗を拾いに行ったのは、キャプテンのドージマだった。
両校イレブン手に汗握り固唾を呑んで見守る中、ドージマの放ったシュートは何の迷いもなく、一直線にゴールに突き刺さった。
「さすがヒロ!」
と盛り上がる『A高』イレブン。今度は『K高』キッカーに、大きなプレッシャーが圧し掛かる。
ところが、相手はしぶとく4人目も成功させ、依然リードされたまま5人目を迎えた。
(うーむ・・・向こうは確実に決めてきやがる。こりゃ、やばいかも・・・)
到頭、崖っぷちに追い込まれた『A高』
次の5人目が外せばジ・エンドという、これ以上ないプレッシャーのかかる状況だ。
「ようやく出番が来たか!」
と、満を持して登場したのはゴトーだ。
「結果を恐れず、思いきり蹴って来い!」
「小細工は要らんぞ。堂々、勝負してこいや!」
というドージマ、にゃべらの檄を背中に
「んな、わかりきったこと言うな!」
と、まるでプレッシャーを楽しんでいるような、ゴトーの強心臓だ。
大きな緊張感に包まれる中、大きく助走を使って迷うことなく思い切りのいいシュートを放つと、ボールは青空に奇麗な放物線を描き、キーパーの手の届かぬ宙を舞ってゴールを揺らし
「うぉ~~~りゃあ~!」
と、ゴトーが大きく吼えた。
ここは
「さすがゴトー!」
などと大いに盛り上がりたいところだが、次の選手に決められた瞬間、敗戦が決まってしまうという現実は変わらない。プレッシャーのかかる場面とはいえ、大舞台の経験豊富なここまでの相手の4人の落ち着きぶりを見ていると
(失敗する可能性は少ないかな・・・)
と見ていたのが、正直なところだった。
しかも敵はここで、満を持してエースが登場だ。目を瞑っているイレブンも何人かいたが
「おまえら、どんな場面でも、しっかり目を開けて現実を直視しとけ!」
という、ドージマの厳しい怒声が飛ぶ。思い切り長い助走を取って、つま先でちょこんと叩いたフェイント。が、キーパーのケントがしっかりと読み切っていた!
あたかも卵を抱きかかえる如くに、両手でガッチリとセーブ。
「ナイスセーブ!」
恐らくは誰もが内心で半分以上は諦めていただけに、この「奇跡」には躍り上がらんばかり湧いた。
「これで、勝った!」
と意気上がる『A高』イレブン。1本の成否が、大きく運命を分けるPK戦だ。
次の6人目も決めて、遂に「王手」をかけた。
(次が外せば、念願の「ベスト8」に進める・・・)
と手に汗握るとともに、ベスト8を戦う我が勇姿が瞼にちらついたが、さすが相手も「優勝候補」だけに、そう簡単には譲ってくれない。
落ち着いて、しっかりと決めて再び振り出しに戻る。
7人目。『A高』のキッカーは、ファインセーブで乗っているキーパーのケントが名乗りを挙げた。キッカーとしても優秀なケントだが、裏をかいたつもりが相手キーパーに見事に読まれ、痛恨の失敗!
一気に通夜のように静まり返った『A高』イレブンとは対照的に、ヒートアップする『K高』イレブンは既に勝ったような大騒ぎだ。失敗を引き摺ってか、ゴールに戻っても顔面蒼白のケント。そこへ敵の放った、容赦ない強烈なシュート襲い掛かった。
パンチングでなんとか弾いたものの、勢いの勝ったボールは非情にも、そのままゴールに吸い込まれていく・・・地べたに這い蹲って、ガックリと泣き崩れるケント。駆け寄るイレブン。キーパーにとってはあまりにも過酷なPK戦で、このような悪夢の結果が待っていようとは!
「しゃーない!
PKなんてのは時の運だ・・・オレたちは勝負に負けたわけじゃねーんだ」
吼えるようにまくし立てるゴトーも、その目は真っ赤に充血している。その場に蹲ったまま号泣するケントに、優しく手を差し伸べたキャプテンのドージマが、無言のまま背中を摩るようにしながら、抱きかかえるようにして引き上げていった。
(紛れもなく、みじめな敗者の姿だ・・・
チクショー!
オレが点を取っていれば勝てたのに・・・)
歓喜にはしゃぐ『K高』イレブンの狂騒を目に焼きつけて、リベンジを心に誓うにゃべ。 かくて「地区大会5勝1分、県大会1勝1分」と勝負には一度も負けぬまま、最後のインターハイが終ってしまった。
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