2005/03/06

PK戦(インターハイサッカー県大会)

PKは、オレが最初に行くぞ!」

 

「なんだと!

トップバッターは、オレに決まっとるだろ!」

 

と互いに譲らず、じゃんけんで勝ったにゃべがトップに決まった。

 

言うまでもなく、一人一人の成功可否が大きく流れを変えるのがPK戦だから、トップは極めて責任重大だ。

 

「死んでも外すなよ!」

 

と言うゴトーの檄を背に

 

(今日は、オレだけが決められなかった・・・)

 

という悔しさをぶつけるように、思い切り蹴り上げたボールは風を切ってゴールに突き刺さった。

 

 「オッシャー!

えーぞえーぞ!」

 

と盛り上がる『A高』イレブン。

 

が、続いて登場した『K高』の1人目も、落ち着いて決めイーブン。

 

次に行くと思われたゴトーは

 

「オレは後で行く」

 

と見せ場を待っていたようだが、2人目も両校ともに成功。

 

『A高』の3人目、副将のタケはコースがキーパーに読まれてしまい、まさかの失敗!

 

「どんまい!

相手にも、プレッシャーが掛かるはずだ!」

 

と期待したが『K高』の3人目は見事成功し、ここでリードを許す。

 

こうなると、俄然プレシャーが掛かる4人目。ここで失敗すると、一気に終ってしまう可能性もあるだけに責任重大だ。

 

「オレが行くぜ!」

 

と、この厳しい場面で自ら火中の栗を拾いに行ったのは、キャプテンのドージマだった。

 

両校イレブン手に汗握り固唾を呑んで見守る中、ドージマの放ったシュートは何の迷いもなく、一直線にゴールに突き刺さった。

 

「さすがヒロ!」

 

と盛り上がる『A高』イレブン。今度は『K高』キッカーに、大きなプレッシャーが圧し掛かる。

 

ところが、相手はしぶとく4人目も成功させ、依然リードされたまま5人目を迎えた。

 

(うーむ・・・向こうは確実に決めてきやがる。こりゃ、やばいかも・・・)

 

到頭、崖っぷちに追い込まれた『A高』

 

次の5人目が外せばジ・エンドという、これ以上ないプレッシャーのかかる状況だ。

 

 「ようやく出番が来たか!」

 

と、満を持して登場したのはゴトーだ。

 

「結果を恐れず、思いきり蹴って来い!」

 

「小細工は要らんぞ。堂々、勝負してこいや!」

 

というドージマ、にゃべらの檄を背中に

 

「んな、わかりきったこと言うな!」

 

と、まるでプレッシャーを楽しんでいるような、ゴトーの強心臓だ。

 

大きな緊張感に包まれる中、大きく助走を使って迷うことなく思い切りのいいシュートを放つと、ボールは青空に奇麗な放物線を描き、キーパーの手の届かぬ宙を舞ってゴールを揺らし

 

「うぉ~~~りゃあ~!」

 

と、ゴトーが大きく吼えた。

 

ここは

 

「さすがゴトー!」

 

などと大いに盛り上がりたいところだが、次の選手に決められた瞬間、敗戦が決まってしまうという現実は変わらない。プレッシャーのかかる場面とはいえ、大舞台の経験豊富なここまでの相手の4人の落ち着きぶりを見ていると

 

(失敗する可能性は少ないかな・・・)

 

と見ていたのが、正直なところだった。

 

しかも敵はここで、満を持してエースが登場だ。目を瞑っているイレブンも何人かいたが

 

「おまえら、どんな場面でも、しっかり目を開けて現実を直視しとけ!」

 

という、ドージマの厳しい怒声が飛ぶ。思い切り長い助走を取って、つま先でちょこんと叩いたフェイント。が、キーパーのケントがしっかりと読み切っていた!

 

あたかも卵を抱きかかえる如くに、両手でガッチリとセーブ。

 

「ナイスセーブ!」

 

恐らくは誰もが内心で半分以上は諦めていただけに、この「奇跡」には躍り上がらんばかり湧いた。

 

「これで、勝った!」

 

と意気上がる『A高』イレブン。1本の成否が、大きく運命を分けるPK戦だ。

 

次の6人目も決めて、遂に「王手」をかけた。

 

(次が外せば、念願の「ベスト8」に進める・・・)

 

と手に汗握るとともに、ベスト8を戦う我が勇姿が瞼にちらついたが、さすが相手も「優勝候補」だけに、そう簡単には譲ってくれない。

 

落ち着いて、しっかりと決めて再び振り出しに戻る。

 

7人目。『A高』のキッカーは、ファインセーブで乗っているキーパーのケントが名乗りを挙げた。キッカーとしても優秀なケントだが、裏をかいたつもりが相手キーパーに見事に読まれ、痛恨の失敗!

 

一気に通夜のように静まり返った『A高』イレブンとは対照的に、ヒートアップする『K高』イレブンは既に勝ったような大騒ぎだ。失敗を引き摺ってか、ゴールに戻っても顔面蒼白のケント。そこへ敵の放った、容赦ない強烈なシュート襲い掛かった。

 

パンチングでなんとか弾いたものの、勢いの勝ったボールは非情にも、そのままゴールに吸い込まれていく・・・地べたに這い蹲って、ガックリと泣き崩れるケント。駆け寄るイレブン。キーパーにとってはあまりにも過酷なPK戦で、このような悪夢の結果が待っていようとは!

 

「しゃーない!

PKなんてのは時の運だ・・・オレたちは勝負に負けたわけじゃねーんだ」

 

吼えるようにまくし立てるゴトーも、その目は真っ赤に充血している。その場に蹲ったまま号泣するケントに、優しく手を差し伸べたキャプテンのドージマが、無言のまま背中を摩るようにしながら、抱きかかえるようにして引き上げていった。

 

(紛れもなく、みじめな敗者の姿だ・・・

チクショー!  オレが点を取っていれば勝てたのに・・・)

 

歓喜にはしゃぐ『K高』イレブンの狂騒を目に焼きつけて、リベンジを心に誓うにゃべ。 かくて「地区大会5勝1分、県大会1勝1分」と勝負には一度も負けぬまま、最後のインターハイが終ってしまった。

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