2005/03/31

救世主(マエストロにゃべpart2)

「おい、ナカジマ!

どうも、オレに指揮は無理だ・・・バンドの末席でいいから、笛でも吹かせてくれんか?」

 

と千佳に持ちかけると、予想外に物凄い目付きで睨んで来た。

 

「アンタねー。ふざけるのも、いい加減にしてよね!」

 

「いや、全然フザケてなんかないぞ。オレなりに頑張ろうとはしたが、やはり指揮なんて無理だったのだ。そもそも人には、適性ってものがあるんだよ」

 

「適性なんて自分で決めるものじゃないし、無理もヘッタクレもないよ。元々エルガーをやろうと言って、ゴリ押ししたのはアンタでしょ。男なら、死んでもやり遂げろよっ!」

 

この千佳の予想外の権幕にはビックリだ。

 

(うぬぬ・・・なんと気の強い、可愛げのないヤツ・・・)

 

この時を境に、これまでの「美少女」千佳のイメージが、大きく一変してしまった。

 

が、考えてみれば、確かにClassicをゴリ押しした経緯がある手前、悔しいが千佳の言い分に分があるかと思い、一旦は矛を収めることにした。勿論、実際に諦めたわけではなく、裏では次なる策を練っていた。

 

そんな事情は知らず、ある日の練習中に

 

「にゃべー、調子はどう?

指揮の勉強は、捗ってるの?」

 

と様子を見に来たのが、合唱部キャプテンの千春である。

 

「スコアって、こんなのどうやって見りゃいいんだか、サッパリわからんぞー」

 

「えーっ?

アンタ、そんな事も知らんと、どーやって指揮をやろうとしとったの?」

 

と呆れ顔の千春。

 

「オマエは、わかるのか?」

 

「アンタ、合唱部員をなんだと思ってるの。嘗めんじゃねーよ!」

 

と、思いっきり背中を叩かれてしまった。

 

「オイオイ、別に叩かんでも。ともかく、手も足も出ん状況なんだ。基本だけでも教えてくれよ・・・」

 

「しゃーないわねー、まったく・・・」

 

と、千春からスコアの見方の基本を教わることになった。なんと言っても、今年から知り合ったばかりの千佳とは違い、中学から「同じ釜の飯を食って来た」千春だけに、千佳のように突き放すのではなく、親身に協力してくれたのは有難い。

 

「しかし、何でも知ってるヤツだなー、オマエって。ホント、偉いもんだ・・・見直したぜ」

 

「見直したって。一体、どんな風に見られてたんだか・・・」

 

さすがに中学時代からクラシックを聴いていたという千春だけに、当たり前の事だがこの分野の知識は、俄仕込みの自分とは段違いだった。

 

こうして千春にスコアの読みを手伝ってもらい、また音楽教師に基本的な指揮法をも教わると、元来が異常に吸収が早いタイプだけに、どうにかこうにか格好がつくまで上達していった (^^)y-o

 

一方、実演部隊の方は、委員長・千佳が張り切って上手く纏めていたらしい。

 

(向こうは、どんな様子かいな?)

 

と様子見に行った時には、すっかり「現場監督」といった感じが板に付いた千佳が

 

「全然、バラバラだよ。もっと、みんな呼吸を合わせて元気良くー。こんなんじゃ、エルガーが泣いちゃうよ・・・」

 

などと、仲間を厳しく叱咤している場面に出くわした。

 

(ちっ。こっちは、ワケのわからん指揮などやらされて苦労しているというのに、アイツは偉そうに命令しているだけかい。まったく調子のいいヤローだ。オレも巧く立ち回って、あの役をやるんだった)

 

などと羨みながら見ていると、千佳が険しい眼つきでこっちへ来て、袖を掴まれた。

 

「ちょっと、こんなとこで油を売っている場合じゃないよね?

指揮の勉強は、ちゃんとやってるの?」

 

と、早々に追い立てられた。

 

(自分は何も演奏せず、偉そうにしてるだけでいい気なもんだ (Д´)y-~~ちっ

 

思わず腹の中で毒づいたものだった(実際にはこれは勘違いで、彼女もオーボエを吹いていた)

 

いよいよ本番を数日後に控えた、或る日。珍しく、千佳がやって来て

 

「ねぇ、そっち方はどう?

こっちはもう、だいたい仕上がってきてるんだけど・・・」

 

「ああ・・・オレの方も、ある程度はなんとかなってきたと思うけどな・・・」

 

「ある程度って。まったく心許ないなー」

 

「オマエらこそ、そんなに簡単に上手くなるものか?」

 

「じゃあ、合同練習してみる?

もうあまり日数もないし、そろそろ音合わせしながら調整して行きたいしね」

 

こうしていよいよ、バンドを振る日がやって来た。

 

クラスのメンバー45人を前に、マエストロにゃべの晴れ舞台だ。

 

「ねぇ、にゃべー。

見難いから、壇に上がって振ってよー」

 

「バカヤロー!

オレがオマエらを見下ろして、振れるわきゃねーだろ」

 

「そういう問題じゃないってば」

 

一段高いところから皆を見下ろすのは気がヒケたために、皆と同じ視線でタクトを揮い始めた。思いも拠らぬほど上手になっていた演奏に驚かされつつも、指揮に益々気合が篭る。

 

「やっぱ、にゃべはさすがねー。元々見映えがえーだけに、随分とサマになっとるわ。 でも本番の時は、ちゃんと台に乗ってやってよ」

 

という声も訊かれた。

 

本番では、気が進まぬながら渋々壇上に登ることに。野球チームの監督(かつては軍隊総司令官)、風呂屋の番台と並び、昔から男の憧れ三大職業といわれるのがオーケストラの指揮者だが、この時まさしくそれを実感した (*ΦΦ*)ニシシシシ

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