「いやー。昨日も電話で話したけど、さっきまで息子と一緒だったんだ。 昨日はディズニーに行ってねー。あのボンクラも、ようやく三浪して金沢の大学に入れたんだ。それで東京で買い物がしたいと言うから、東京で合流してさ・・・昨日は結局、最後まで付き合って、その後は「シー」の方にも行ってねー。結局、夜の10過ぎまでディズニーにいたなー。ホテルでは一緒に風呂にも入ったし、文字通りハダカの付き合いで・・・ガッハッハッハ」
例によって人の関心にはお構いなしに、家族の話を捲くし立て始めたT氏であるが、こっちはそんな話に興味はないから、適当に切り上げて貰う事にした。
「それはそうと・・・ともかく食事でも行きましょうか・・・」
「いいよいいよ・・・もう弁当も買ったし、帰りの新幹線で食べていくから。新幹線ももう6時50分のが取ってあるし、気持ちはありがたいが気を遣わないでよ」
「なんだ・・・折角だから、ゆっくり食事でもしながら呑もうかと思っていたのに・・・」
「そうかー・・・それもそうだったなー。じゃ、その辺の赤提灯で、軽く一杯やっていくか?」
「え?
でももう、6時50分のが取ってあるんでしょ?」
時計を見ると、既に6時を10分くらい廻っていた。
「まだまだ時間もあるから、これから行こうじゃないか。まだ大丈夫、大丈夫・・・」
といいながら早くも腰を浮かせたと思ったら、あっという間にレジで清算しつつ
「ねえねえ、この辺りに赤ちょうちんはないかな?」
と訊いている大声が届いて来た。こっちの感覚では「たった30分しかないのに・・・」というところだが、気忙しい性分のT氏にとっては「まだ30分もあるんだから」という事になるらしい。
「じゃあ、早速行きましょう」
「今の店の清算は・・・?」
「いいからいいから」
「じゃあ、次の呑み屋は私が・・・」
などと遣り取りしながら歩いてみたものの地下街という事もあって、なかなか適当な居酒屋のような店が見当たらない。
「あ、ここでいいんじゃないか・・・?
よし、ここにしよう」
見ると、そこは何の変哲もないラーメン屋ではないか。
「ここはラーメン屋だから、大したものはないんじゃないですか・・・?」
どう見ても、碌な物はなさそうな店である。
「ラーメン屋だから、ギョーザとかがあるだろう。私は新幹線で弁当を食べていくからいいし、アナタは取り敢えずラーメンでも食べていればいいでしょ」
と言うが早いか、例の調子でズカズカと入って行ってしまった。
「取り敢えずビールを持って来てよ、2本だ!
後は、ギョーザを二皿だな・・・」
「ビールは、ジョッキになりますけど・・・」
「ビンビールはないのか・・・なんだ、そりゃ」
と早くも毒づくT氏。
「申し訳ありませんが、当店は前金制になっておりますので、お会計の方を先に・・・」
と坊やのような若い店員が言うが早いか、電光石火の早業で財布を取り出したのはT氏であった。
「あ、Tさん・・・さっきも言いましたが、ここは私が払うので・・・」
「いいからいいから・・・で、幾らなの?
領収書を切ってくれ」
と、あっという間に支払いを済ませてしまったのには参った。
「にゃべさんねー、本当に気を使わなくてもいいんだから・・・」
「しかしですね・・・なんで、私がご馳走になるんでしょう?」
「いいのいいの、そんな細かい事は。それよか、ラーメンでも食べたらどうなの?
オーイ、なにか少しは気の利いた、野菜炒めくらいのものはないのか、この店は?」
「そういうものは、うちではやっておりません・・・」
実際に壁に貼ってあるメニューを見ても碌な物がなく、薄暗い店内には客の姿もない、まさに不景気を絵に描いたような店なのだった。
「なんだ・・・なんにもねー店だな、まったく・・・こりゃ、失敗したな・・・」
などと、さらに毒づくT氏を尻目に
「だから言ったのに・・・じゃあ今からでも、別の店に移りますか?」
すると、店員の坊やが頬を膨らませ
「そりゃ、ウチはラーメン屋ですからね・・・」
と口を尖らせた。
「ああ、そうかい・・・失敗した、失敗した・・・」
と尚も舌打ちを繰り返すT氏だったが、今更河岸を変えている時間はない。
「あのですね・・・よろしければチャーシューとかメンマとかなら、おつまみで盛り合わせにする事も出来ますが・・・」
「なんだ・・・そーゆー事は早く言いなさいよ、早く・・・じゃあ、直ぐにそれを持って来て」
とT氏の異様なテンションに追い立てられるように、若い店員は去っていった・・・
「どんな風にすればよいですか?」
「どんな風にと言われてもなー・・・どんなものがあるんだかわからんしなー」
「適当でいいよ、そんなのは・・・適当に盛り付けてくれたまえ」
「そうそう・・・適当でいいから」
「適当と言われましても・・・」
と坊やのような店員は、困ったような顔だ。
「そっちは商売なんだから、適当に見繕ってくれればいいって事だよ」
「そうそう。あと、ビールをもう2杯追加だ」
と言うが早いかまたしても電光石火の早さで、さっさと会計を済ませてしまったのは参った。
結局、こんな調子で支払いは総てT氏が済ませてしまい、仕方なく最後のkioskで
「いやー、思わぬ事にご馳走になってしまいまして・・・折角だから、何かお土産でも持って行って貰いましょう・・・」
と言うと
「いいからいいから。これ以上荷物が増えるのも困るし、その気持ちだけでも嬉しいよ」
「しかし、それでは・・・じゃあなにか、土産の菓子折りでも買って来ますよ」
「本当にいいんだ。じゃあ、ビールでいいよ・・・帰りの車内で飲んでいくから」
ロング缶2本を手渡すした。
「いやー、ありがとー。
にゃべっちに買って貰えるなんて感激だなー、ガハハハハ。じゃあ、またねー」
と吼えながら、嵐のように去って行くT氏。冷静に考えてみれば、案外寂しがり屋のT氏だから帰りの新幹線を待つまでの時間潰しか、或いは見送りのために呼ばれたような気がしないでもない。
T氏には10万円を借りっ放しではあるが、引越しその他でしばらくは返せる当てがない旨を伝えると
「私の分は、一番最後でいいから・・・」
と言っていた(無論、ホンネではなかろうがw)
S社からは「仲介料」として、毎月幾ばくかのお金が支払われていると言う事はA氏から訊いていたから、このうえご馳走になったとはいえ特に恐縮する事もないのだろう。結局は中途半端な呑み食べとなってしまい、自宅に帰ってから今度は落ち着いて改めて飲み直す事になった (。 ̄Д ̄)d□~~
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