2004/12/28

ハチャメチャ納会 (Gシリーズ第2章)前編


 仕事収めのこの日は何事もなく平穏のうちに1日が過ぎ、夕方の6時半を廻った頃に早速、別室で恒例の「納会」が開かれていた。メンバー12人のうち3人は完全な下戸で、残りも大して強いのは居ない。大酒呑みの2人のうちの一人は風邪で最終日を欠席していたため、一番良く飲むのは隣の席に座っていたK氏と、このワタクシである。

K氏はメンバーの中では最も無口な男であり、普段から必要以外の事は滅多に喋らない事はおろか、生来の口下手なせいか仕事上必要な話の時すら、低い声でボソボソとお経を唱えるように喋るのがやっとというテイタラクだったため職場内に親しい相手は居なかった。が、極度の照れ症である事はとっくに見抜いていたワタクシは、喫煙所などで見かけた時に積極的に話かけたりしていた。

その結果、家が近い事などもわかり途中まで一緒に帰った事もあったり、またちょうど年齢的にも同じくらいという事もあって、この頃はようやくざっくばらんな感じで、K氏も胸襟を開くようになっていた。

この日の納会でも、例によって口の重いK氏の相手を務めていたのはワタクシである。偶々隣り合わせに並んでいた、この二人がいつものようにハイペースでピッチをあげていた。凡そスーパードライの大瓶で2~3本、ワインを紙コップで3杯、最後に麗々しく出されたジャック・ダニエルを氷割にして、2杯くらい呑んだろうか。隣に座っていたK氏とは、互いに酌をしながら呑んでいたせいかK氏も同じくらい呑んでいたようだった。

普段は滅法強いK氏だが、12月に入ってから流行した風邪によってメンバーが交代で休み、気付いてみれば唯一風邪を引かなかったのがワタクシだけだったが、K氏もまだ病み上がりだったせいか、かなり顔を赤くしていた。8時、9時となるに連れ下戸や家の遠いものを中心にポツポツと帰って行き、空席が目に付くようになった頃に、その「事件」が起こった。

「じゃあ、ボチボチお開きにしましょうか・・・」

現場責任者のS氏がお開きの宣言をすると、普段はいるかいないかわからないくらい大人しいK氏が、突如としてテーブルに突っ伏して声を上げて泣き出したのである。少し前から、K氏がテーブルに突っ伏していたのは知っていたが、てっきり酔っ払って寝ているものだと思い込んでいた事もあり、また座が佳境に入って盛り上がっている事もあって、普段から目立たないタイプのK氏に殊更に目を留める物好きもいなかった。

得てして、K氏のような普段から大人しい人物に限って酒乱の気があったり、酒を飲むと泣き上戸になったりするという話はよく訊くが、これまで歓送迎会など3度ほど皆と一緒に飲んだ時は、まったくそうしたそぶりは見られなかっただけに、誰もが考えもしなかったという側面もあった。

特に、最初のワタクシの歓迎会の時などは、7人で2次会のカラオケ店に行き、深夜1時過ぎまで呑み続けたから今回よりは遥かに呑んでいたにも関わらず、バーボンをラッパ呑みしながら意外にもカラオケで濁声を張り上げ陽気に騒いでいただけに、この時ばかりは誰もが呆気に取られた。

責任者のS氏、最年長で第二責任者のC氏を中心に

「色々と、プレッシャーがあったんだなー」(C氏)



「Kさん・・・今日のところは、もうおとなしく帰ろうよ・・・」(S氏)

と背を撫でたりしていたが、当のK氏はただひたすら泣くばかりで皆どうにも手のうちようがなく、戸惑った顔を見合わせるばかりであった。

「しばらく、そっとしておいた方がいいだろう・・・オレが責任も持って返すから、他の人たちは帰っていいよ」

というS氏の言葉を受け、第二責任者のC氏を始め何人かが帰って行き、6-7人が残った。

しかしながら

(そのうち、泣き止むだろう・・・)

という皆の観測を裏切ってK氏の泣きは収まるところを知らず、次第に激しい嗚咽へと変わっていった。

「こりゃ、どうにもならんわ・・・」

と、苦笑いを浮かべたS氏から

「にゃべさんたちも、帰っていいよ・・・後始末は、オレがやっとくから」

と言われたものの、実はメンバーの中で真にK氏と胸襟を開いて語り合えるのは自分だけだとの自負があるから、ここは自分が連れて帰ろうといういらぬ気紛れをおこしたのが、そもそもの間違いだった。

「じゃあワタクシが、Kさんを連れて帰りますよ・・・」

と言うと、それまでひたすら泣き続けていたK氏の口から

「オマエと一緒には、帰りたくはない・・・」というセリフが・・・

前回も触れた通り、メンバーとのコミュニケーションが苦手なK氏と喫煙所で唯一、ざっくばらんな会話が出来るのはこのワタクシのみであり、また家が近く同じ方向という事で途中まで一緒に帰った事があるのも自分だけだから、酔っ払いのタワゴトとはいえ、この思いもよらぬバカにしたようなセリフに思わず激怒した。

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