『A高』は公立校だけに、名門私立のように決してお坊ちゃま、お嬢様が多くはなかったが、それでも地区一の進学校とあって医者の娘・息子が合わせて10人ほどに、いわゆるエリートビジネスマン家庭の子も居た。
医者の子では、大学付属病院の医師を両親に持つマザーと、一族が医師家のタカミネ御曹司を筆頭に、淳子(内科)、キトー(一族で総合医院を形成)、エリ(形成外科)らといった成績上位の常連は、いずれも実家が地区では知られた開業医を営んでいた。
またエリート商社マンの子も、ヒムロ(伊藤忠)ら『B中』同窓組を始めとして何人かいたが、代表格といえば何と言っても絵里奈、すなわち「お嬢」である。
東大卒の「M商事」上りで実家の建設業の後を継いだ父親と、いいところ出で資産家の母親を持つ「お嬢」らしく、子供のころから乗馬や夏には海外バカンスでクルージングなどもしていたという、まさにエリート中のエリートだ。実家が建設業者だけに、新興都市・C市の高台にある「緑ヶ丘」も頂上付近にデンと構えた住まいは、ドラマに出てきそうな雄大かつ瀟洒な洋風豪邸と評判であった。
そんなエリート中のエリートを絵に描いたような「お嬢」が、A市の片田舎にある『A高』に1時間もかけて電車で通ってきていたのだから、なんとも場違い極まる。寧ろ田舎の『A高』などよりは、名古屋の私立お嬢様校である『K学院』あたりの、日本一の伝統を誇る制服の方が似合いそうな境遇だった。
名古屋随一の名門である『東海中学・高校』を出て、東大を卒業した父の頭脳を受け継いだか、その実力は「四天王に匹敵しうる」と称されたお嬢だったが、蝶よ花よと育てられた根っからのお嬢らしく、その無軌道かつワガママな性格は手がつけられなかったと言われた。
このお嬢が、入学早々に同じC市在住の御曹司タカミネに早速、目を付けた。タカミネといえば、こちらも一族が医師家系のサラブレッドであり、かつまたオトコマエ、さらにヨット部で活躍するスポーツマンと『A高』一のモテ男だったが、温厚を絵に描いたようなおっとりとした性格だったから、多くの御曹司ファンの女子からは
「御曹司ったら、あのお嬢の気の強さにやられてしまわれるのでは?」
という心配の声が聞かれたらしい。
さらに男子からは
「野心と虚栄心の固まりのような女だから、おおかたサラブレットのブランドがお目当てなんじゃ?」
と、半ば羨望も含んだ声も聴かれた。
が、どのような陰口を聞こうとも、お嬢が一向にお構いなしだったのは
(自分以外は、総て貧しい愚か者ばかりだわ)
とでも悟っていたためだったか ヾζ  ̄▽)ゞオホホホホホホホ
そんなプライド高き「お嬢」が、17歳にして初めて「本気の恋」をした。中学までの「イモ猿」どもは、どれも自分に相応しい相手というに程遠かったが、この『A高』にはナント、光り輝くようなサラブレッドが居た!
180cmを超す長身に加え、にゃべらとともに『三大オトコマエ』に数え上げられる優男ぶりであり、さらに成績も常にトップを争う天才と来ている。一族が医師家系と言うサラブレッドらしく、子供のころからヨットを趣味としていたというスポーツマンだけに、単にひょろ長いだけの青瓢箪とはかけ離れて、セクシーなまでの逞しい肉体も兼ね備える。
ことほど左様に、滅多にお目にかかれないような4拍子も5拍も揃ったまたとないサラブレッドだけに、稀代の自惚れ屋でプライド高きお嬢が
(うーん、まさに私にピッタリだわ!
まるで神様が、私のために用意してくれていたような・・・)
と、夢見心地にうっとりと舞い上がってしまったとしても、まったく無理はなかった。さらにはタカミネ自身が、このようなエリートを鼻にかけたようなところのまったくない、これだけのものを兼ね備えながらも、まったく気取ったところのないという奇跡的に素晴らしく出来た男でもあった。
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