インターハイ出場が決まり、大ブレイクしたカオリ。カオリの美しく高度に洗練された演技を、実際に目で見る事は出来なない同級生は、蔭から拍手喝采の心境だったろう。
そんな中、このカオリの活躍をおそらくは複雑な心境で見守っていたであろう、微妙な立場の女子が1人存在した。彼女の名は、ミナコ。カオリとは中学時代から、因縁浅からぬ仲である。
このミナコというのが、非常にユニークなキャラクターだった。ひと言でいうならカオリとはちょうど、まったくといってよいほどに何から何までが、正反対のタイプだ。美しいロングヘアをポニーテールにしたカオリに対し、少年のようにボーイッシュに刈り込んだボサボサのショートヘアがトレードマークのミナコ。悪戯好きの小学生のような、やんちゃな風貌は女らしさといったものとは一切無縁で、カオリの女らしい美貌とは好対照であった。
スタイルも161cmと体操選手としては長身で、完璧に整った抜けるような色白のカオリに対し、ミナコの方は150がやっとの小柄に加え、色黒でガリガリの痩身は「お色気」などといったものとは一切、無縁だ。またパーソナリティも好対照で、おそらく気の強さだけは共通していたろうが、普段はそういった面はおくびにも見せず、あくまでも無口で乙に澄ましていたのがカオリである。対するミナコの方は、常に八方破れのようなガラッパチの性格に加え、持ち前のガラガラ声を嗄らして捲くし立てる機関銃トークは、明日香とともに知らぬ者のないほどのお調子者として有名だった。
そんなお喋り好きなミナコの語るところによると、2人は中学時代から地区の体操界ではライバル関係にあったらしい。2人とも同じC市の中学で、互いに体操部のエースとしても活躍していただけに、地区大会などでは何度も顔を合わせ、早くから顔見知りであった。
「ま、なんてったって中学の体操だからね。インターハイのようなレベルとは、全然段違いなわけよ。要は、運動神経のいいヤツが勝ちって世界だな。でもそういった基本だけでも、やっぱり才能ってのは隠せないわけよな。
あん時は
『地方都市の大会とは思えないような、ハイレベルな2人の戦い!』
とか言われたんよ。
ホントホント。ぎゃはははヽ(▽⌒*)」
ミナコの話し口調は常にこんな調子で、飾りっ気がまったくないだけに、皆が興味を持ってこの語り部の話の続きを待っていた。
「それで結局、その時はどっちが勝ったの?」
「もちろん、あたしに決まってんじゃん。その時ってか、一度も彼女には負けた事ねーからな。ハッキリ言って、こっちはライバルとも思ってなかったね。彼女も、今ほど容姿端麗って感じじゃなかったけど。でもホラ、その時から背ぇたけーし、色白くてスマートだったからね。だから、あたしとしては採点で損するんじゃねーかって、いつもそれが唯一の心配だったな・・・見た目で比較されると、やだなっーって。実力では、絶対に負けてねーぞ、と」
「へぇー。中学の時は、ミナコの方が強かったんだ?」
「オイオイ、中学の時は、ってのは何さ。中学の時は、ってのは!
3年の時は、地区大会で優勝したのが当然あたしよ。で、2位がカオリだけど、結構差があったしね。だから、あたしは淑徳(体操の名門校)からも特待が来たしカオリは推薦、この違いわかるかな?
高校に入った時も、1年生の時から一番注目されたのは、当然あたしだったわさ。カオリは、その頃にはもう容姿とスタイルでは、誰よりも群を抜いてたけどさ・・・」
しかし1年生時代は、2人とも上級生に出番を阻まれた。そして2年生になると、2人揃って仲良くレギュラーに抜擢される。
「まだあたしの方が、評価は全然上だったさ、フフン」
とミナコの言う通り、最初に大会で起用されたのはミナコの方であった。しかし相変わらずミナコが、少年のようなボーイッシュな外見に一向に女らしさが現れぬのに対し、この頃からカオリの方はグンとお色気を増し色白の美貌ばかりか、その均整の取れた抜群のプロポーションの美しさは、いよいよヴィーナスのように完璧なまでに整って来て、皆の目を惹かずにはいられないほどになっていた。
「見た目だけは、どう逆立ちしたって誰もカオリには勝てねーからな!
特にプロポーションなんか、女の私が見ても惚れ惚れとするくらいだし、どっからみても完璧だわさ・・・まあ、よその栄養失調のような体操選手とは、月とスッポンよ」
と、毒舌のミナコも認めずにはいられなかったほどだった。さらに女らしさが増して来たばかりではなく、実力的にもグングンと伸びて来たカオリ。それまで、頭の上の重石のように、常に自らの行く手を塞いで来たミナコに一気に肉薄し、遂には肩を並べるまでに成長して来たのである。
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