2003/12/01

ポチはどこへ?(前編)



 にゃべっち家は、実家が商売だった事に加えオヤジの動物嫌いも手伝って、幼いにゃべっちやミーちゃんの希望したペットを飼う楽しみには恵まれなかったが、一度だけ姉ミーちゃんの友達から仔犬を貰い受けた事があった。

「(商売片手間に、小学生2人と高校生1人の)子供だけでも手が掛かるのに、このうえ犬の面倒まではゴメン蒙るわ。どうしても貰うというなら、あんたたちで責任持って飼いなさいよ!」

と渋る母との約束で、メデタクにゃべっち家に待望の愛犬がやって来た。  

物珍しさも手伝い、しばらくはミーちゃんと2人で散歩に連れ出したりして遊んでいたものだったが、次第に学校の友達と遊ぶ機会が増えてくるにつれ、犬の世話はお座なりとなってくる。ブツクサ言っていた両親も、あまり放っておく訳にも行かない。仕方なく母は残飯を作るエサ係になるし、また生来の動物嫌いだったはずのオヤジも少しは情が移ってきたか、日課の朝の散歩に連れ出すまでになっていった。

こうして、すっかり「にゃべっち家の一員」と成りおおせた「ポチ」だったが、夏休みに恒例の家族旅行に出かける事となった。にゃべっち家には「マリコ姉」という、激情的(要するにヒステリー)な性格の姉さんが住んでいた。商売だったにゃべっち家は、母屋とは別に3F立てのビルの1Fに店を構えており、2F3Fテナントとして保険会社や化粧品会社の事務所に貸していた(屋上では、狭いながらも網を張ってゴルフの打ちっぱなしをやっていた)管理に纏わるゴタゴタから嫌気がさしたオヤジが、貸事務所業から撤退をしたために2F3Fががら空きとなってから、2Fには兄マッハとともにマリコ姉も住んでいた。キーパンチャーをしていたマリコ姉は、名古屋の有名コンピューター会社に勤めていたため、近所の知り合いのお婆さんにバイト料を出して留守番を頼むのが、にゃべっち家の慣わしである。

さて楽しい日中の観光が終わり、宿に付くと夕食の時間だ。几帳面な母は、いつものように家に電話をかけ、お婆さんに細々とした指示を出した。最後に  

「犬のポチにも、忘れずエサをあげておいてくださいな」

と伝えると

「え?

犬??

犬なんて、どこに居るのかしら?」

と惚けた返事が返って来た ( ´Д`)はぁ?
 
ワケがわからないまま、母は

「オバさーん・・・しっかりしてくださいな。門のところに居るはずですよー」


「おかしいわねぇ・・・全然、気付かなかったけど・・・じゃあ、ちょっと見て来るわ・・・」

暫く待っていると

「やっぱり犬なんて、どこにもいないけど・・・どういう事なのかしら?
私にも、何がなんだか良くわからないわ・・・」

(え??

という事は、マリコが散歩に・・・?

まさか、それはありえないしね・・・)

母がこう考えたには、ワケがある。この犬は、どういうわけか郵便配達やらセールスマンやら、本来なら吼えなければいけないような知らぬ顔が入ってくると、妙に人懐っこく甘える習性があった。 

「あれじゃ、番犬として役に立たないじゃない!
ホント、アタマ悪い犬だね!」 

と両親もオカンムリだったのだが、どういうわけかマリコ姉とレーコ姉に向かってだけは、それこそ「親の敵」とばかりにヒステリックに吠え立てるのだった。先にも触れたように、このマリコ姉は普段は陽気なお姉さんなのだが、時として強度のヒステリーを起こす癖があるため

「まったく!

どっから、あんな薄汚いバカ犬を拾ってきたのか!

人を親の敵みたいにして吼えまくりやがって、煩いったらありゃしないよ!まったく、ケッタクソわりーな!!」

などと、日頃から強い憎しみを抱いていたのである。

それだから、選りにも選ってあの犬嫌いのマリコ姉が、憎っくきポチを散歩に連れ出す事などは、天地が逆さまになってもありえないはずなのだ。

が、現にお婆さんが幾ら見ても居ないと言い張るのだから、まさかとは思いつつも

「じゃあ、マリコが散歩にでも連れ出したのかしら・・・」

と、口に出して呟くと

「マリコちゃんは、さっき帰ったみたいで部屋の灯りが見えてたけどねぇ・・・」  

と、お婆さんもキツネにつままれたような声である。

無論、陸上部のエースとして、高校でもバリバリと練習に明け暮れていたマッハが帰宅するのはもっと夜遅くだったし、仮に居たとしても常に自分の事しか念頭にないあの偏屈男が犬の散歩などは、これまたヒス姉と争うと思われるほどに、たとえ「石が流れて木の葉が沈もうとも」ありそうもないことだった。

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