2003/12/02

ポチはどこへ?(後編)

 こうして疑惑を抱えたままにも旅程をこなした一家は、摩訶不思議な気持ちに包まれたまま帰宅した。真っ先にポチの姿を探してみたものの、確かにお婆さんの言う通りオヤジ手製の小屋の中は鎖もろとも蛻の殻で、どこをどう探してもポチの姿が掻き消えているではないか。留守中でもあり、門はずっと閉めたままだったのだから、ポチが勝手に出て行ったということは考えられない。門の高さは2m近くはあったから、身軽な猫とは違い犬の跳躍力で飛び越えられる高さでは毛頭ない。また、飼っている間に見る見る成長したポチは、門の下の隙間から這い出られるほどの小さい体でもなく、また猫のような特殊な柔らかい体を持っている訳ではない、ごくフツーの雑種犬なのである。

こうなると、どう考えても「人為的な手が加わった」としか、結論付けることが出来ない状況だ。となると「容疑者」は、必然的に留守中にゃべっち家に居た留守番の婆さんと、マリコ姉、そしてマッハの3人に絞られる。このうち、電話で犬の失踪を確認した夕方の時点で、まだ陸上部の練習から家に帰っていなかったマッハは容疑から外れ、さらに絞っていくと何の利害関係もない婆さんがポチを捨てるのは、今後の信用に関わるのに引き換えて何のメリットも考えられない。

このように考えを煮詰めていくと、消去法からもやはり大の犬嫌いの「マリコ姉が犯人」という論理的帰結に至るのは、自然の成り行きであった。ただし現行犯ではないから、ハッキリとした証拠があるわけでないのをよいことに、当の本人はあくまで「知らぬ存ぜぬ」の一点張りで、こちらとしても確信は持ちながら追求するための切り札がなかった。

 ところが・・・である。
ポチが居なくなって清々した安堵からか、調子に乗ったマリコ姉は、ポチの「失踪」に落胆するにゃべっちやミーちゃんに対し、トンデモナイ悪質なデマを吹き込み始めたのである。

「アンタたち、知っとる?
実はポチがいなくなったのは、おかーさんが捨てたからなんだよ・・・」

無論、にゃべっちとミーちゃんも子供とはいえ、マリコ姉の吹き込む話には胡散臭さを感じており、密かに当のマリコ姉本人こそが怪しいと睨んでいた。というのも普段は気が小さいが、一度ヒスを起こすとトンデモナイ行動を起こすマリコ姉の性癖は、これまで嫌というほど何度も見てきたからで、逆にクリスチャンの母が犬を捨てるなどは、到底考えられなかった。そうして、なんとなく釈然としないままにもウヤムヤとなりかけていたが、ついにその真相が明かされる時がやって来た!

 母とマリコ姉の会話の時だ。

「そうそう・・・アンタって酷いじゃないの?
何で私がポチを捨てたなんてデタラメを、子供たちに吹き込むわけよ!   一体、あれはどういうつもり?」

と、母から強く詰め寄られたマリコ姉。

最初のうちは

「はぁ?
それ、なんのこと?」

などとオトボケを決め込んでいたものの、いよいよ追い詰められてか或いはさすがに良心の呵責を感じたか、厳しい追及に遭いようやくの事で真相を明かした。

「ハハハ・・・バレタカ・・・そう、私が捨てたんだよ!
あんまりキャンキャンと煩く咆えるえるからさ、あのバカ犬めが!」

どうやら、この一家揃っての家族旅行こそは千載一遇のチャンスとばかり、いそいそとポチを「拉致」したマリコ姉。強度のヒステリーで、かっとなると手が付けられないマリコ姉ではあるが、元々は小心者で根っからの悪人という訳ではないから、数件離れた通り沿いの映画館の駐車場に縛り付けてくるのが精一杯だった。ところが、その日は夕方になると真夏の夕立が訪れた。さすがに、酷い雷雨に心配になったらしく

「ちょっと、ポチを探してくるよ・・・」

と留守番の婆さんに言い残して様子を見に行くと、マリコ姉の縛り方がヘタクソだったのか、或いはあまりにキャンキャンと鳴き立てるのに迷惑した近所の誰かが鎖を解いてしまったか、或いは愛犬家に保護されて行ったかはわからないが、確かに縛っておいたはずの元の場所からも、また周囲からもポチの姿は忽然と消え失せていた・・・

その「現場」は、にゃべっち家からは数件離れていただけの距離だったから

「あんな近くなんだから、普通の犬なら自力で戻ってくるでしょーが!   
やっぱ、あの犬はアホだわ!」

と、母にコッテリと油を絞られた腹いせからか、ポチの鈍さ加減ばかりを嘲笑うマリコ姉。或いは、ポチの方が「天敵」のいる家には足を向けず、自ら逆方向を選んで去っていった・・・というのが案外、ことの真相だったのかも知れない Ψ(ーωー)Ψ

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