にゃべっち家では、中学生になるとともに鉄筋コンクリートの離れに、鍵付き個室の部屋を与えられるのが慣わしであった。長男のマッハが中学に入学して離れに住み始めた当時は、すでに離れのビルにはマリコ姉とレーコ姉が住んでいたため、ここからがマッハの「地獄の日々」の始まりだった。そのマッハが大学生として2年ぶりで帰省した時は、既に結婚していたマリコ姉もレーコ姉もこの離れからは姿を消し、代わって高校生のミーちゃんと中学生のにゃべっちが部屋を構えているのを目の当たりにし、仰天した ( ゜ ▽ ゜ ;)エッ!!
「おまえら、ええな~!
天国みたいじゃん!
オレなんか、あの2人に挟まれて地獄だったんだぜ!
アイツらがおらんかったら、オレも本当は早稲田くらいは入っとたのになー」
と半ばは冗談めかして、しかし半ばは本気ともそれそうな憎憎しげな口調で語っていた通り、マリコ姉のステレオの大音響と、レーコ姉の度重なる夜遊びには相当に悩まされていたらしかった。しかも悪い事に、マッハの部屋と言うのがレーコ姉の隣にあてがわれた事で、高校3年の受験の年には当時流行っていたディスコサウンドを連日のように深夜までガンガンと鳴らされていたから、デリケートなマッハには堪らなかった。
溜まりかねて
「うるせーぞ、バカヤロー!」
と怒鳴っても
「なに~?
テメーなんか、どうせロクな大学に受かりゃしね~くせに、いっちょまえの勉強など止めとけ、偏屈男が!」
と例の通りの良い大声で、三倍にも膨れ上がった毒舌が返って来るのみであった。こういった事が数限りなくあったから、マッハの方では当然の如くに、この姉妹(特にレーコ姉)に対しては日頃から恨み骨髄であった事は、当然の成り行きだったろう。
そんな状況下で、次なる「事件」が起こった!
普段は、滅多に両親になど話し掛ける事などはなかったマッハが、珍しく母に
「レーコが夜中になると、3Fのどっかの事務所へ入り込んでるみたいだ・・・どっか連れの所に、電話でも掛けてるんじゃないかな?」
という、ボソッとした報告があった。当時はまだ、3Fを幾つかの会社の事務所にテナント貸しをしていた頃である。
「それは困ったわねぇ・・・じゃあアンタが今度、様子を確かめてみてくれない?」
と依頼されたが
「なんでオレが、そんなくだらん事をやらないかんのか」
と、ニベもなく断った。このマッハという男は、生まれながらの偏屈な秘密主義者だったが、年々その秘密主義に益々拍車がかかり、中学生くらいの時からは家に居る時は食事と風呂以外は、常に自分の部屋に閉じ篭もりきりとなっていた。普段から、何をやっているのかサッパリ見当のつかない男だったから、本来であれば人のために動くような事は、一切有り得ないタイプである。
ところが、このマッハには「オヤジ譲りの非常にガメツイ性格」というウィークポイントがあったため
「バイト料を出すから・・・」
という依頼には、二つ返事でOKしたのである。さらに好都合なことは、先にも触れたように日頃から「超」の字の付くほどに秘密主義者のマッハだから、こうしたスパイ紛いの真似が得意中の得意だったことである。
ドア開け階段を何段か昇ったところで、あのレーコ姉独特の無神経な良く通る大声を耳にするのは、何の造作もなかった。ここまではマッハの読み通りだったが、驚いたことにその通話はなんと延々1時間以上にも及んだから、さしも物怖じしないマッハも呆れて報告をした。
「どうやら化粧品会社へ入って、電話しとるらしいな。
しかも1時間は、優に超えとったわ」
このマッハからの報告を訊いた真面目人間のオヤジが、強い危機感を募らせた事は言うまでもない。商売人として当然ではあるが、何よりも世間体を異常なまでに気にするのが、オヤジの性質であった。
「早いとこ止めさせないと。
バレたら大恥だわよー、こんな事って・・・ああ情けない」
と嘆く母に
「だがな・・・面と向かって問い詰めたところで、素直に認めるようなタマじゃないからな。アイツだけは、現行犯で抑えるしかないだろう・・・」
といった経緯で、再びスパイ役のバイトを依頼されたマッハ。なにせ憎っくレーコ姉の犯行を暴いた上、破格のバイト料まで懐に出来るのだから、口では
「オレも、こんな真似はあんまり気が進まんわ・・・」
などと言ってはいたものの、内心は満更でもなかったろう。
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