12月に休暇を取り「天下の名泉」として名高い、お隣岐阜の飛騨地方にある下呂温泉に出かけることにした。
将軍家の御用儒学者であり、また旅行や温泉好きで日本各地を漫遊した風流人でもあった林羅山が
《我国の諸州に温泉は多くあれど、その最も著しいものは摂津の有馬、上野の草津、飛騨の湯島この三所なり》
と絶賛したといわれるが「飛騨の湯島」というのが、この下呂温泉の事である。
延喜年間から天暦年間の頃に現在の温泉地から離れた場所である、湯が峰の山頂付近に温泉が湧出したのが始まりである。
出典 Wikipedia
文永2年(1265年)に山頂からの湧出は止まったが、現在の温泉地である益田川の河原に湧出しているところを発見された。このことは、開湯伝説における「白鷺伝説」として伝わる。
温泉地は飛騨川の氾濫の度に壊滅的な被害を受けてきたが、その度に復興してきた。また「下呂」の名前は昭和以降に使われ始めた名称で、それ以前は「湯之島」と呼ばれていた。
この「下呂」の名の起源は律令時代に遡り、駅伝に用いられた「下留」駅が時代が下って音読みする様になり、転じて現在の音(「げろ」)と表記になった。今では「下呂市」と自治体名称が変わったが、90年代終わりの頃のこの当時は、まだ「益田郡下呂町」という名前が示す通りかなりの田舎で、温泉以外にはなにもないような昔ながらの鄙びた温泉地という感じの町であった。2泊3日で、ノンビリと下呂の温泉三昧を楽しもうと計画していたワタクシにとっては、まさに打ってつけの閑静な環境ではある。
唯一の(?)見どころといえば、世界遺産に登録されている白川郷の合掌集落から移した、合掌造りの家をメインにした「下呂温泉合掌村」くらいのもので、まずはそこから観光で廻ったところ
(これで商売として成り立つんかいな・・・?)
と、呆れるほどに人が閑散としていた。
≪温泉街の東、弘法山のなだらかな丘陵地に、世界遺産となった飛騨白川郷の合掌家屋を昭和39年より移築し、現在10棟ほどの合掌集落となっています。中には、天保4年(1833年)から弘科3年(1846)までの13年間をかけて作られた、旧大戸家住宅(国指定重要文化財)などもあります。これは現存する合掌家屋の中でも、最大級の物となります≫
大して見るべきものもないが、土地だけは広いからゆっくりと見て周り、ついでに周辺の町までをブラブラと歩いてみる。人混みの嫌いなワタクシでさえ、少しばかり不気味な気がするほどに、昼間というのに歩いている人の姿は殆んど見られなかった。『下呂小唄』を作詞した詩人・野口雨情を顕彰した雨情公園から温泉寺、ヴィーナスの足湯、白鷺の湯、そして中心街の益田川にかかる下呂大橋までをグルリと一周した頃には、日が落ちかけていた。
ズボラで無精者の常として、いつものように直前の予約だったせいか、それでも宿だけはどこも満室でなかなか予約が取れなかったが、ようやく小さな宿に空室があった。雑誌の写真で見た外観がショボかったので
(折角の温泉旅行で、不味くて高いメシを喰わされてはかなわん)
と外食で済ませようと思い「素泊まりでいいから」と言うと
「素泊まりは、やっておりませんです・・・お食事付きの宿泊に、限らせていただきますので・・・」
と、欲の深そうな女将が電話に出た。仕方なく、食事付きで予約するしかない。
「お食事付きのコースは1万1千円と1万2500円、1万5千円とありますが・・・」
「???」
るるぶには《9000円コースから》と書いてあるのだ。
「1万1千円からか・・・安くないね。予算が少ないんだけど、9000円ってのがあるとか書いてあったような記憶が・・・」
「9000円コースですかぁ・・・一応ある事はありますけど、あまりお奨めしてませんねー。1万1000円のコースですと、料理も会席風でかなり違ってきますよ・・・」
ここで2000円をケチって、直前になってキャンセルでもされては堪らないから(過去に京都の旅館で、そういうケシカラン経験があった)
「じゃあ、1万1000円コースでやってもらうか・・・」
と、一旦はそれに決めた・・・
その後、宿から確認の電話が入り、今度は大人しそうな主人らしき男の声が聞えて来た。確認の要件を済ませ、最後に
「コースの方は、1万1000円の方でよろしかったでしょうか?」
「9000円でもいいんだけど、女将さんがそれにしろと言うからね・・・」
「ハハハ・・・どうします?
よろしければ、9000円でやらせていただきますよ?」
「料理とかが、随分違ってくるとか言う話が・・・?」
「いやいや、1万1000円のコースも殆んど同じなんですわ」
と、電話越しにも
(あの欲張り女房のヤツが、吹っかけやがって)
と、苦笑いでもしている様子があからさまに見て取れたため、この気の良さそうな主人の好意に甘えて、9000円コースに変更してもらった。
宿に着くと旅館ではお馴染みの、玄関のところに立ててある「xx様御一同」という看板が、個人名ばかりの中で
と、麗々しく立てかけてあるのには笑った。
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