《第3楽章までは人生を謳歌する楽天的な音楽なのだが、第4楽章で音楽が最高潮に達したところで突然、断絶が生じる。
終楽章の細かいリズムの刻み方と懐かしい旋律の奏で方は、愛らしい陽気さを湛えて楽しくピッチカートがメルヘンチックな音彩を撒き散らす。
民俗音楽の新たな可能性に、生きる喜びを見出した矢先のことだった。
異常に高いバイオリンの高音(ホ音)が、超音波信号のように音楽の進行を遮断する・・・その描写が、ある日突然スメタナを襲った耳の疾患を示していることは明らかである。
スメタナの聴力を奪った耳鳴りの音の衝撃!
その後の慟哭の苦しさ・・・それまでの人生賛歌が、奈落の縁に突き落とされた地獄の音楽に変わり果てる。
そして、ようやく訪れた心の平安。
その音楽を初めて耳にした時、ショックのあまりそれから何年も『わが生涯より』を聴くことができなかった。
できれば、今後もあまり聴きたくはない。
『わが生涯より』は、あまり聴いて楽しい音楽ではない。
とはいえ、これはスメタナを知る上で欠かすことができない重要な曲であると同時に、たった4本の弦楽器の響きが人間の味わう天国と地獄を完璧に表現し尽す》
大作曲家が、命を賭けて創った弦楽四重奏曲の傑作なのである。
スメタナが亡くなったのは、この曲の作曲から8年後の1884年で、死因は「メニエール病」と診断された。
ところが、真相は違っていた。
彼は1874年頃に、梅毒に罹っていたのである。
ある医師が遺体を解剖したところ、脳の萎縮や聴神経の消失などの症状が見られた。
医師は、結論として死因を梅毒による進行性麻痺と診断したが、彼は「民族の名誉を汚す者」として医師会から叱責された。
その後、1963年にスメタナの日記などが調査され、彼が梅毒患者であったことがほぼ確定した。
が、スメタナの音楽が素晴らしいものであることは一点の変わりもない。
0 件のコメント:
コメントを投稿