マリコ姉とレーコ姉は、3歳違いの姉妹である。姉妹とはいえ性格はまったくの正反対で、極度のヒステリーで一旦火が付くと手が付けられなくなるところは互いに共通する部分だったが、普段の性格は無口でおとなしいマリコ姉に対し、レーコ姉の方は明け透け(というか蓮っ葉)な口調でズバズバと歯に衣着せぬ物言いをした。マリコ姉の方はかなり人見知りが激しい性格で、それがために初対面からしばらくはやや陰気な印象を持たれがちだったが、慣れ親しんだ相手には別人のように朗らかな態度に豹変する。一方、レーコ姉の方は人見知りなどは考えられぬ底抜けの図々しさで、超の付く毒舌で機関銃のように捲くし立てる陽気で愉快な性格ではあったが、あまりに度が過ぎ遠慮が無さ過ぎるため、近しい人たちからは煙たがられる存在だった。
このように、子供の頃から対照的だった2人の違いは成績にも表れた。理数系が苦手なマリコ姉は、早熟タイプの多いにゃべっち一族の中で唯一、子供の頃から成績が芳しくなかったらしい。マリコ姉が、これといって目立たない存在だったのに対し、色白のふっくらした丸顔で目がパッチリと可愛らしかったレーコ姉の方は、成績も常に医者の娘とトップを争っていた秀才であり、また「サル」と言われたほどすばしこく運動神経も群を抜いていた。加えて手先も器用で芸術系の才能にも恵まれるなど、にゃべっち顔負けの「神童」ぶりは、学校でも知らぬ者はないほどに有名だったらしい。そんな優秀かつ過激な性格のレーコ姉だから、当然の事ながら(レーコ姉の目には)デキの悪い「不肖の姉」を何かと小バカにしては、2人で大喧嘩を繰り返す犬猿の仲だった。
が、さしもの「神童」であるこのレーコ姉も、にゃべっちと争う大の怠け者であったツケが廻ってきたか、中学に入ると同時に成績は一気に急降下するや次第にワルの本性が頭を擡げてくる。髪を赤く染め見る間に『B中』のスケ番となるや、校内ばかりではなくA市全域に轟くほどの「大物ぶり」を発揮し始めた。そうして遂には成績も一気に下がって行き、名古屋の私立高校へ通うころには半年も経たぬうちに早くも夜遊びを覚え、学校帰りまたは学校をサボってディスコへ通っては酒にタバコと、堕落した学生生活を満喫していたらしい。
幸か不幸か持ち前の美貌に加え、170cmというモデルばりのスラリとしたプロポーションにも恵まれたため、ディスコにやってくる数々の男子学生を手玉に取っていたというから驚く。今でこそ、高校生のディスコ通いや飲酒という程度に驚く者もいないだろうが、当時はこんなところでデカイ顔をしてタバコをふかしているのは、男子学生でも名古屋の相当な札付きの不良くらいなものであった。
「レーコは一体、誰に似たんだ?
あんなトンデモないワルがウチから出るとは、嘆かわしい・・・」
というのが、口煩いオヤジの口癖になっていた。
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