2004/08/17

ベートーヴェン ピアノ協奏曲第3番(第1楽章)



ベートーヴェンといえば、モーツァルトとともにあらゆるジャンルに渡って、数々の傑作を残してきた偉大な作曲家である事は今更繰り返すまでもないが、交響曲に次いで特に人気の高いのが、ピアノ曲である。

全部で27曲あるピアノ・ソナタは、バッハの「旧約聖書」(平均律クラヴィーア曲集)に対して、ピアニストを目指す人のための「新約聖書」と言われる音楽史の金字塔であり、またピアノ協奏曲も殊のほか有名だ。

元々、楽聖ベートーヴェンの出発はピアニストからだった。当時は、ドイツの田舎であったボンを出て

「私のピアノを聴いてくれ」

と大胆にも、14歳年上の大先輩・モーツァルトをウィーンに訪ねたのは、まだ17かそこいらの頃である。

「では、弾いてみたまえ・・・」

と鷹揚に構えているモーツァルトの前で自慢の腕を披露したものの、案に相違してモーツァルト先生は表情ひとつ変えてくれない。賢いベートーヴェン少年は

(ははあ・・・この人は自分に聴かせる為に、この曲ばかりを練習してきたのだと思っているのだな・・・)

と直ぐに悟ると、即興で曲を創ってくれるよう頼んだ。待つほどもなく別室で曲を創ったモーツァルトが、作品を渡してくれた。それをスラスラと苦もなく弾いてみせるベートーヴェン少年を見て、今度はさしものモーツァルトも驚き

「この少年は、やがて世界を制覇するだろう」

と予言した。

 モーツァルトの予言は、見事に的中した。当時、ウィーンの演奏会場で流行したピアノの腕比べで、名だたる数々の名手を次々に撃破して行ったのが、若き日のベートーヴェンである。

ある時、ベートーヴェンはシュタイベルトというピアニストと公衆の前で、即興演奏対決をする事になった。先攻は、シュタイベルト。シュタイベルトが即興演奏のテーマとして選んだのは、ベートーヴェンのある作品だった。ベートーヴェンのテーマを使って即興演奏を行う事で

「同じテーマを使って、オレならアンタよりもっといい曲が書けるぜ」

と言うアピールである。さあ短気なベートーヴェンは、これを見て激怒した。 先に演奏が終わり、汗びっしょりになっている相手を冷酷に見下すベートーヴェン。シュタイベルトの演奏が終わるか終わらないかのうちに、つかつかとピアノに近寄るとシュタイベルトの用意していた楽譜をむんずと掴み取り

「それで・・・一体、いつになったら真面目に弾き始めるのですか?」

と遥かに年長の相手を小バカにしてみせたから、相手の激怒すまい事か。

「じゃあ、次はオマエが弾いてみろ!」

何が起こるのか聴衆が注目する中、ベートーヴェンは何とシュタイベルトの楽譜を「逆さま」にして譜面台の上に乗せた。当然、初めて見る楽譜である。それを逆さま。それをそのまま弾いたところで、音楽にすらなっていない。聴衆が唖然とする中、ベートーヴェンは驚く事に逆さまの楽譜を元にして、即興演奏を始めた。

相手の曲をモチーフにしての即興演奏」どころの騒ぎではない。シュタイベルトは作曲活動もしていた訳だが、ベートーヴェンと自分のあまりの才能の差を思い知らされる。

「コイツは人間じゃない・・・悪魔に魂を売ったに違いない・・・」

とビックリ仰天して、すごすごと会場を後にした。ベートーヴェンはそれにも気付かず、ただただ自分の音楽に酔いしれピアノを弾き続けた。

※ピアノ協奏曲なのに、主役のピアノがおもむろに登場してくるのはかなりの時間が経過してから(平均的な演奏で4分近く経ってから)というのも、ベートーヴェンならではか。

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