2004/08/20

これがオリンピックか(アテネオリンピックpart6)

 勝負というものは、まったくやってみなければわからないものだ・・・とはいつも言われる事だが、この日の柔道こそはまさにその典型であった。なにせ男女全14階級を通じて金メダル候補が何人もいる中で、YAWARAさんとともに最も金メダルが堅いと思われた井上選手がよもやの敗退に終わり、逆に「五輪では絶対に勝てない」と思われた阿武選手が遂に金メダルを獲得するという、まったく予想とは反対の結果になってしまったのだから。

男子柔道
井上選手といえば前回のシドニー五輪、そして昨年の世界選手権ともに圧倒的な強さを見せつけ、世界中のどの階級を見渡してもこれほど抜きん出た存在は見当たらないくらいであっただけに、今回も金メダルは間違いないというのが大方のファンの一致した見方だったろう。それだけに「日本選手団の団長」という大役にも抜擢されたわけだし、精神的な図太さにも定評があるはずと誰もが信じていた。しかしながら人の心の内は誰にも読み取る事は出来ないし、信じられない事だが、あの「動かざる事、山の如し」といった風情の井上選手にも、計り知れない相当なプレッシャーがあったらしい。

緒戦から

(これが、あの井上選手か・・・?)

と目を疑いたくなるようなギコチナイというか、今までにまったく見たことのないような鈍い動きであり

(どこか体調がおかしいのか、怪我でもしてるのかな?)

としか思えないくらいだった。

(まあ試合を重ねるにつれて、調子を上げてくるのだろうが・・・)

などと、この時点でもそんなに心配はしていなかったのは、大方の観方だったろう。

ところが勝ちはしたものの、一本柔道が身上の井上選手としては不本意な鈍い動きは一向に変わるところなく、3回戦で唯一「これぞ井上!」という鮮やかな内股一本を決めた以外は、ずっと金縛りにでもあったかのような不自然なまでに消極的な重い動きに終始していた。

(それでもまあ、井上の事だから最後にはキッチリやってくれる事だろう・・・)

とここに至っても、まだ井上選手が敗れる姿はさすがに想像がつかず、追い込まれてからも

(このままではポイント負けか・・・?)

と気を揉みはしたものの、よもや一本負けだけは予想だにしなかった。

言うまでもないが、同じ勝ち負けの結果とはいえ「ポイント負け(勝ち)」と「一本負け(勝ち)」ではその重みが全然違う。特に五輪王者・世界王者クラスの選手ともなると「一本負け」は大変な屈辱である。その大きな屈辱を、井上選手が(恐らくは初めて)嘗めさせられた。

しかも敗者復活戦に回った時には、これまで見たこともないくらいに明らかに息が上がっており、最初から重そうだった体が益々動かなくなって来ていたから

(こりゃ、メダルは無理だな・・・)

と感じはしたが、ここでまたしても一本負けと、これ以上ない恥の上塗りであり、とても観ていられずにTV画面から目を背けたかった。

 昨年の世界選手権では、目を瞠る強さで完璧な「」を捥ぎ取った様は、あたかも「一寸の狂いもない精密機械」のように思えた井上選手である。心技体のうち「」と「力(肉体)」は、今でも最高のものを備えている事は疑いないのだから敗戦の要因はやはり残る「」であり、当たり前の事だが井上選手はロボットでも精密機械でもなく生身の人間であった、という事である。

そういう意味からも、改めて五輪三連覇を成し遂げた野村選手、或いは四大会連続してファイナルを飾り、二度の金メダルを獲ったYAWARAさんの「心・技・体」の充実ぶりからも、その偉大さがわかろうというものである。

早くも「オーバートレーニング症候群」なる敗因が取り沙汰される中、このままで終わってしまう選手ではないはずだという皆の期待の中で、これから天才の試練が始まる事になるのだろう。

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