両親の旅行中、にゃべ家の旅行中の留守を預かっていたのが、姉ミーちゃんとにゃべの2人であった。とはいえ、にゃべの方は中学からサッカーのクラブ活動で連日帰りが遅かった事から、留守番役としてもっぱら当てにされていたのは、そのころは「帰宅部」と化していたため、時間的な自由の利く姉の方である。
といってもあの、人一倍ワガママな姉が素直に留守番などを引き受けるわけはなく、当時としては破格ともいえる高価なバイト料がお目当てであった。
当時、高校生だった姉にとっては破格ともいえるバイト料だけに、旅行の話が出る度に小躍りして喜んだ事は言うまでもない。
「今度はオレがやるよー、留守番!」
「ダメダメ・・・オメーは部活があるんだろーが」
「なーに・・・あんなの1日くらい休んだって、どうってことはねーって」
「なに寝言ほざいてんだって・・・これは、私が頼まれた仕事なんだから。ガキは、外で球蹴りしてればえーの」
という調子で、絶対にこのおいしい役目だけは譲る事がなかった。また両親にしても、まだ中学生のにゃべよりは、しっかり者の姉の方が頼り甲斐があるらしかったのも、致し方ないところか。そのうえ、実はこの留守番役には先述した日当の他にさらに余禄があり、強運の持ち主であったミーちゃんはある年の留守番で、思わぬボロ儲けにありつく事になったのである。
にゃべの実家は、母方の全面的な支援を受け木造2階建ての標準的な母屋とは別に、当時の地元では珍しい3階建ての鉄筋コンクリートのビルを構えていた。ビルの方は1階が店舗、2階と3階はテナントとして、幾つかの火災保険会社や化粧品会社に貸していただけに、外部との境界となる非常口は鉄製の頑丈なドアが取り付けられ、内部との2重の鍵を設けるなどセキュリティは万全だったが、それに比べると木造の母屋の方はセキュリティが幾分手薄となるだけに、常に人が常駐していなければならない。
にゃべら3人の子らがまだ小さいうちは、当然子供を連れての旅行となるため留守番が必要だ。にゃべ家にはマリコ従姉妹とレーコ従姉妹という親戚が2人いて、2人ともまだ年若く、また人物的に見てどちらもあまり信頼の置けるタイプではなかったものの
「まあ、赤の他人に頼むよりは・・・」
ということで、2人のうちでは幾らかマシだと思われるマリコ従姉妹さんに白羽の矢が立ったが、マンション住まいのマリコ従姉妹には
「あの広い母屋で1人で寝るなんて、考えただけでも気味が悪いわ」
と、さっさと逃げを打たれた。
仕方なく消去法により頼まざるを得なくなったレーコ従姉妹は、若い頃から心臓に毛が生えている上に欲の皮が突っ張っていただけに
「ええよー。まあ私に任しといたら、大船に乗ったつもりでいってこやー」
と例によって返事だけは威勢が良かったが、この学生時代から「札付きのワル」として近所中にその名が轟いていた人物に留守番などを任せた迂闊さに気付かされるまでには、殆ど時間を要さなかった。
留守番とはいっても何も大した事をするわけではなく、ただ店にかかってくる電話を受けるのと夜に母屋で寝るくらいのもので、あとは終日横になってテレビを見ていれば良いだけなのだが、当の留守番役のレーコ従姉妹のしたことといえば、ビルの店舗に忍び込んで鍵をかけ忘れたオヤジの金庫から大枚5万円也を掠め取り、肝心の夜になるや自分のアパートへトンズラを決め込むという、信じがたい悪辣さであった。
翌日、何食わぬ顔でにゃべ家に戻り、旅行帰りの父から報酬をしっかりと受け取っていった神経には驚かされる。
元々、ズボラな性格だけにこれらの悪行の数々も呆気なく明るみに出るに至り、代わって近所の知り合いの無害なお婆さんが暫くの間、留守を任されることになった。
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