『A高』入学は、これまでのライフスタイルに、2つの大きな変化をもたらした。
まずは通学。小・中学校は、家から歩いて10分程度と近かったが『A高』までは電車で各停ひと駅分、徒歩では20分はかかるだけに、自転車通学となった。学区トップの『A高』に入学した360人のうち、約半数がA市内の5つの中学出身組、残りの約半数はA市以外の周辺市町からの電車通学組である。
2つめは、校内環境の激変だ。当時、公立校の定員は1学年360人が相場だったが、その中で『B中』出身者は僅か1割に満たない32人。他の9割以上はまったく見知らぬ顔ぶれだ。これまで小・中学と9年間に渡って殆ど同じ顔ぶれ(中1の1年間だけは、C学区とY学区のメンバー臨時の「間借り」があったが、それでも約半数はB学区のメンバーだった)で通して来ただけに、これは戸惑いを覚えるには充分な環境といえた。
そんな中で迎えた、初登校日。子供の頃から朝は滅法弱く、遅刻常習だったにゃべ。不覚にも初日から寝過ごしてしまい、指定の時間を遅れて入った教室には、当然ながら見知らぬ顔が並んでいる。
これが、去年までなら
「オーイ、にゃべー!
また重役登校かー」
とかなんとか、おどけたヤジが爆笑の渦とともに返ってくるようなケースだったが、そこには無関心な顔が並んでいた。
「そうかー。今日から、高校生になったんだっけ・・・」
と、妙な実感をかみしめていると
「あーっ、にゃべー!」
と、あの忘れもしない透き通ったソプラノが響き渡った。見ると、そこには『B中』の制服(なぜか『A高』の制服は『B中』と同じものだった)を颯爽と着こなした、懐かしい千春の姿が。
(ありゃりゃ?
これは夢か幻か・・・?)
「あー、にゃべと同じクラスで良かった。知らないコばっかりで、心細かったしー」
といつもは冷静な千春が、珍しくも今にも抱きつかんばかりの勢いなのである。
「オイオイ、やめとけよ・・・」
と照れ隠しを言いながら辺りを見渡すとなるほど、千春の言の通り見知らぬ顔ばかりで『B中』出身者は、僅か4人しかいない。
「良かった良かった。
アンタが同じクラスって、すっごい心強いわ・・・」
と白い顔を綻ばせる千春の、なんとかわいい事か。
(うーむ、タカシマのヤツ・・・益々、カワイくなったなー)
と、この思わぬ展開に心密かにほくそえむ、にゃべ。まことに、ここまでは最高の展開ではないか! ( ̄ー ̄)ニヤリッ
ところが・・・
「オーオー、オマエラ!
しょっぱなから、見せつけてくれるじゃねーか!」
と場違いな下卑たヤジが飛んだ!
その方向を見ると、そこには憎っくきアイツの姿が・・・
千春とは『B小』時代からの同窓だが、小学校時代は1度も同じクラスにはならなかったから、実質的な出会いは『B中』1年で同じクラスとなった時である。
当初は、C学区から来ていた真紀と「級長同士」の出会いが鮮烈だったが、次第に大らかなスケールを感じさせる不思議な魅力を持った、千春にも惹かれていく事になっていった。そして真紀が新設された『C中』に去ってからというものは、その注目はもっぱら千春に向けられる事となり、小夜子、香とともに最もお気に入りの一角に数え上げられた。
その千春だが、ここへ来るまでは同じ『A高』に入っていたかどうか不明だっただけに、このようにして溌剌とした顔を見た時に嬉しさがこみ上げてきたのは当然であった。千春とは、小・中学9年間で僅か1度しか同じクラスにはなれなかったのが、幸運にも高校では1年目から同じクラスとなったばかりか、登校初日に真っ先に迎えてくれるというシュチュエーションには、運命的なものを感じずにはいられないではないか。
この『A高』の制服は、男子の詰襟も女子のセーラーも、何故か『B中』と同じ物を採用していたため、千春の『A高』制服姿は昨年までの見慣れた『B中』生時代の千春と同じはずだったが、高校生となった環境の意識の違いからか、なんとなく新鮮なものに見えたから不思議である。
これで真紀が同じクラスなら、あの楽しかった中1時代の再現となるところだったが、目を皿にして見渡してみても、残念ながら真紀の姿は見当たらない。
「結局、オマエもここへ来てたんだなー」
「まあね・・・アンタみたいに、歓迎して(推薦)迎えられた人とは大違いだけどね・・・」
「オマエも、義姉さんと同じ『金城』に行くのかと思ってたよ」
「まさか・・・ウチは義姉さんとこみたいな、お金持ちじゃないよ。でもさー、知らないコばっかりだから、アンタと同じクラスってのはホント心強いわー」
と送って来た流し目が、ゾクゾクするほどに色っぽいのだ。
(やっぱり中学生時代とは比較にならんほど、大人びてるよ・・・)
入学初日から、早くもノボセ気味に? ( '艸`)ムププ
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