Classicの演奏は、決してただ楽譜通りに弾くと言う訳ではない。歴史的な大芸術家は「即興演奏」の素晴らしい才能を持っていた。文字通り、ひとつのテーマから即興で1曲演奏してしまう事だ。
楽譜に曲を書き付けるだけでは、100年も200年もその音楽が聴き継がれたりはしない。頭の中から湧き出て、止まらない音の洪水。大作曲家の中でも、特に即興演奏に恐ろしい才能を示したのがベートーヴェンだった。
田舎からヴィーンに出てきた若僧をこてんぱんにしようと襲い掛かり、逆にこてんぱんにやられてしまったピアニストが死屍累累となった。その中の一人、ゲリネックは試合に負けた翌日、友人とその息子にこう洩らした。
「まったく、昨日のことは一生忘れまい!
あの若僧には、悪魔が宿っていやがる。あんな演奏、今まで聞いたことがない。そやつは、オレが出した主題で即興したんだが、モーツァルトだってあんなふうには即興しなかったぜ!」
その言葉を聞いて、ベートーヴェンに興味を持つようになったゲリネックの友人の息子というのが、後にベートーヴェンの弟子となるカール・ツェルニー(チェルニー)であった。
当日夜に行う「予約演奏会」のため、即興に近い形で曲を書き散らしていった「音楽職人」モーツァルトに対し、推敲に推敲を重ね自ら納得いくまで、ひとつの曲をジワジワと熟成させていったのが「芸術家」ベートーヴェンである。あたかも、天国の雲の上をフワフワと歩くような、モーツァルトの天上の音楽とは対照的に、ベートーヴェンには自らの人生の葛藤(特に耳疾を患ってからは、その苦闘の軌跡)や運命との格闘を綴った「音のドラマ」がある。
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