2004/08/23

野口、マラトンの丘を制す(アテネオリンピックpart10)

 オリンピックの注目競技は沢山ありますが、ワタクシも含めて多くの日本人が特に大きな期待を持って注目しているのが、女子マラソンでしょう。女子マラソンへの国民的な関心の高さは、オリンピックの代表選考が毎回物議を醸す事でも明らかですが、特に前回シドニー五輪の金メダリストである高橋選手が落選した今回の選考は、世論を巻き込んでその是非が問われました。

かくいうワタクシも、代表選考のデタラメさを槍玉に挙げてきた一人ですが、高橋選手贔屓のワタクシとしては、落選の元凶といわれた(?)小出コーチに恨み骨髄ではあるものの

「オリンピック(という舞台)で(或いはラドクリフやヌデレバ)に勝てるのは、高橋しかいない」

という繰り返し訊かされた意見にだけは諸手を挙げて賛成だっただけに、高橋選手を選ばなかった陸連の愚かさには愛想が尽きたという話は以前にも書きましたので、ここでは敢えて繰り返す事はしません。

今でも代表三選手よりは、高橋選手の方があらゆる点から見て遥かに上だと思っていますが、決まってしまったものはもう戻らないのだから現実に出場する三選手に期待するしかないのですし、勿論代表三選手の実力はそれぞれ世界のトップとしてメダルに充分手が届くだけの顔触れである事は、これまた疑いのない事実ではあります。

下馬評では高橋選手と同等か、或いはそれ以上とも言われるラドクリフ選手がガチガチの本命であり、続いてケニアのヌデレバ選手。日本のトリオはほぼ横一線で、この中の誰か一人が何とかメダルに引っ掛かってくれればという見方が妥当で、イギリスの有名ブックメーカーのオッズでも「土佐4位、野口6位、坂本7位」という、日本人の目にはいかに何でも低過ぎないかと感じる程度の評価でした。

そんな中、いよいよレースが始まります。過去に「女子マラソン劇場」というフィクションをupしてきたのも、実は読者の方々にこの五輪マラソンを楽しむ時のサイドストーリーとしていただければというのが真の狙いでした。が、果たしてどれだけの人が憶えていた事でしょう?

それはともかく、そこではマラソンという競技の過酷さを繰り返し書き連ねて来ましたが、今回もまさにいつも通りの悲喜こもごものドラマが生まれました。

 東京の代表選考レースで高橋選手がよもやの失速をした時には、誰が見ても失意のどん底にあったはずの高橋選手に対し、心無いTV局がゲストに呼んでいた世界最高記録保持者のラドクリフ選手から直接インタビューのマイクを突きつけるという、あまりに無神経極まるバカ企画に激怒してみせたのはワタクシでした。その時は白いジャンパーに身を包み、颯爽と惨敗を喫した高橋選手を睥睨するかのようにして優越感に浸っていた(?)女王・ラドクリフ選手が、この肝心要の五輪の舞台でガチガチの本命に推されながら、よもやあれほどの見るも痛々しい醜態を演じる事になろうとは、誰が予測しえた事でしょう。

これこそ、まさに世界記録保持者とか過去の実績などは屁の突っ張りにもならないという「これがオリンピックの怖さ、マラソンの怖さである」というサンプルのような展開でありました。改めて、マラソンという競技の過酷さや難しさを示してくれたのが、今回のレースであったと言えます。

ラドクリフばかりか、レース前は自信ありげだった日本の坂本選手、土佐選手と有力選手が次々にあえなくも篩い落とされていく中で、中間地点を過ぎたところから果敢にレースを作り、終始自ら描いたレース運びで風を切ってトップを走りきった野口選手こそは、レース展開から見ても真に「世界の女王」の称号に相応しい素晴らしいパフォーマンスを魅せてくれました。

(だから高橋じゃなきゃ、ダメだと言ったろうが・・・)

と手薬煉引いて待ち構えていたこのワタクシとしては、日本人選手の中では最も期待していたとは野口選手とはいえ、この会心過ぎるほどのレース巧者ぶりで見事に「マラトンの丘」を制した不屈の精神力には、ただただ脱帽するしかないですねー。

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