姉のミーちゃんが中学生になると、ミーちゃんにその任が回ってくる事になる。長兄マッハは中学生時代から陸上部のエースとして扱かれ帰りが遅いのと、元々薄情な性格で家の事などには一切関心がなかったため到底、留守番を頼める相手ではなかった。
留守番中のミーちゃんの任務は、夜の7~8時に帰ってくるにゃべの夕食と翌日の朝食を作ることと風呂を沸かす事くらいで、後は前述した通りテレビを見ているだけで良く、最も重要となる任務は商売の電話の取次ぎと夜に離れにある自分の部屋ではなく母屋で寝る事である。
広い母屋に一人で寝るのは結構薄気味の悪さが伴うものだろうが、それさえ我慢すれば2日で1万5千円、3日で2万5千円也が懐に入ってくるのだから、当時としては格段に割の良いバイトである事は間違いない。子供のころからクソ度胸があった姉ミーちゃんは、母屋での一人寝もまったく苦にならない様子であった。
さて、このにゃべ家の高額バイトだが、実はこの正規のバイト料の他にも余禄が付いていた。にゃべ家には、客からの問い合わせの電話がかかってくる。今のように携帯の時代なら旅先へ転送設定も出来るが、まだポケベルすら登場する前の時代だから、かかって来る電話を受けるのは留守番役・ミーちゃんの役割だ。
電話を受け、相手の名前と電話番号を訊いてメモしておくと、1件に付き200円也の報酬がプラスされる。これが時によって非常にバラツキがあり、少ない日は1件もないが多い時は10件以上という日もあり、さらにこの時に受けた電話の客に商品が売れた場合は、商品価格に応じたボーナスも貰えるという仕組みである。
もっとも実際、これらの客に売れていたとしてもオヤジが内緒にしていればわからないわけで、あの超ガメツイおやじの事だから大方口を拭っていたものと思われるが、ある時にはこんな事があった。
それは2泊3日で、信州のどこかへ旅行に行った時の事。出発当日の夕方、地元の高校から授業で使う某機械の大口注文が入ったのだ。
対応が面倒なミーちゃんは
「今、店の者が留守なので・・・」
と逃げを打ち、明後日にならないと帰らない旨を告げると
「では明後日に、また電話します・・・」
という事となった。
1日に2,3度はチェックが入るオヤジから、例によって
「何か用はなかったか?」
という電話が入った折に
「xx高校から
『x機械を全部で20台くらい纏めて買い換えるので、見せて欲しい』
とか言ってきたよー」
と伝えると
「なに?
xx高校から・・・20台纏めて買い換えるだと・・・?」
と、たちまち商売の鬼が頭を擡げてきた。
帰宅後に母に訊いた話では
「まあ、今度の旅行ほどつまらないものはなかったわよー。あの電話を訊いてからは、もう心ここにあらずの態なんだから・・・早速、長野のホテルから学校に電話すると
『こりゃ、思わぬことになったぞー!』
とホクホク顔で、夕食では仲居を早々に追っ払うと
『A機械が1台10万だから10台で100万。B機械が1台20万だから6台で120万・・・〆て220万で粗利が・・・』
とかなんとか、紙とペンを出して一人で計算ばかりしてるんだからー」
こうなっては最早旅行どころの気分ではないオヤジは、予定していた2,3日目をキャンセルすると、翌早朝一番に旅館を出るや自宅へ一目散。
「帰りの車の中でも商売の話ばっかりで、何を話し掛けてもウワの空なんだから・・・もうアホラシー」
すっかりしらけきった母の方は、オカンムリであった。
結局、この時の売上は通常のひと月分にも匹敵する大口となり
「私が最初に電話を受けたんだからねー。約束だよ!」
と散々にプレッシャーをかけ続けたミーちゃんは、さすがに今回ばかりはどう誤魔化しようもなかったドケチオヤジから、大枚3万円をせしめたのであった。
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