2004/08/19

ベートーヴェン ピアノ協奏曲第3番(第3楽章)



 この第3番は、過去の2作に比べオーケストラは遥かに雄弁であり、ピアノもスケールが大きく、そして微妙なニュアンスにも富んだものとなった。構成的には伝統的なスタイルを維持し、ハイドンやモーツァルトの影響が残る1番や2番の流れを引き継いでいるが、内容的には4番や5番に近くベートーヴェンらしさが出てくるのも、この第3番からである。

そうした意味で、この第3番はベートーヴェンがよりベートーヴェンらしくなっていく中期の「傑作の森」の入り口に佇む音楽と言える。

遅筆で知られるベートーヴェンは、この『第3番』では初演までに曲の完成が間に合わず、ベートーヴェン自身にしか分からない記号のようなものがところどころに書き込まれているだけで、かなりの部分を即興で弾きこなしたというエピソードが伝わっている。

偉大な作曲家にはこのようなエピソードが多く、実際には後世の作り話であることも少なくないが、このピアノ協奏曲第3番に関するエピソードは事実だったらしい。

この作品は、残された資料から判断すると1797年頃から手を着けられ、1800年にはほぼ完成を見ていた。ところが、気に入らない部分があったのか何度も手直しされ、とうとう初演の時に至っても完成を見ずに、その様なことになってしまったと言われる。

翌年、弟子のヒラーがウィーンでピアニストとしてデビューすることになり、そのデビューコンサートのプログラムにこの協奏曲を選んだ。そのため、他人にも分かるように譜面を完成させなければいけなくなって、ようやくにして仕上がることになったのである。

ヒラーは、手紙の中で「ピアノのパート譜は完全に仕上がっていなかったので、ベートーヴェンが自分のためにはっきりと分かるように書いてくれた」と、嬉しそうに記していたそうだ。

それでいて、腕自慢の人にありがちな徒に技巧に走るような衒いがまったくなく、非常に均整の取れた完成度の高い作品に仕上げているところは、さすがというべきである。

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