女子柔道
男女7階級で熱い戦いが繰り広げられた柔道競技が、この日で終了しました。
この日は、男女とも最も重いクラス。最近では、何故か「無差別級」という言い方をしなくなりましたが、実質的には無差別級です。
まず登場して来たのが、女子の塚田選手。このところメキメキと力をつけて来ている塚田選手だけに期待はそれなりに大きいところですが、なにせこのクラスは伝統的にC国選手が圧倒的な強さを誇ります。複数の選手を代わる代わる送り込みながら達成してきた、五輪三連覇&世界選手権二連覇の実績からも分かるとおり、同レベルの化け物のような選手が3~4人で代表争いに鎬を削っているのだから、他国の選手にとってはまさに「万里の長城」ともいうべき鉄壁の牙城であるというのが常識的であり、実質的にはいつものように他の選手たちで「銀」と「銅」の二つのメダルを争う展開になるだろう、というのが至極妥当な見方でした。
そうした状況の中で「柔道ニッポン」の威信をかけて、また「女子無差別級の金」といえば、長年に渡る柔道関係者の悲願(というよりは「叶わぬ夢」といったほうが正確だった)であるといっても過言ではなかったでしょうが、その夢の実現に向けて一人密かに虎視眈々と驚異的な猛練習を積んできたと言われるのが、この塚田選手です。
99%まではありえないと思われた番狂わせの、残りの1%がもし起こるならば頂点に立つのは塚田選手であろう、という一縷の期待を賭けていたのが日本の柔道関係者だったでしょう。他国の選手同様、塚田選手もこれまでC国選手には悉く子供扱いされてきた内の一人であり、かつては正直なところ
(メダルに引っかかれば上等)
といったところでしたが、昨年の世界選手権ではそれまでとは違いC国選手相手にも、或る程度はサマになるところまで来ていたのが
(ひょっとしたら・・・?)
と、僅かに期待を持たせた根拠でした。
そういった状況の中、緒戦から五輪初出場とは思えぬ落ち着いた表情で登場して来た、塚田選手の快進撃が始まります。
このクラスでは小柄なだけに、フットワークと技の切れを活かして最初から積極的に攻める柔道からは、並々ならぬ意欲と好調さを感じさせました。自分より一回りも二回りも大きな相手を次々に一本勝ちで仕留めていく逞しさは、明らかに一皮剥けたような感じであり
(こりゃ、C国選手との対戦が楽しみだぞ・・・)
と手に汗握って観戦していたのは、ワタクシばかりではないでしょう。
こうして準決勝に駒を進め、いよいよ宿敵のC国選手の影がチラツいて来るところですが、塚田選手の勢いは止まりません。準決勝でも強敵を力で薙ぎ倒し、念願の決勝進出を決めたところで信じられない大波乱が起こりました。
C国選手まさかの敗退!!!
打倒中国選手を目標にこれまで頑張ってきた塚田選手にとっては、些か拍子抜けした事でしょうが、これで目標の「金」獲得には願ってもない大チャンスが訪れる事になります。
このようにして、あたかも総てが塚田選手を「金」に導いていくかのようなお膳立てが整い、その中で実に冷静に実力通りの結果を勝ち取った塚田選手の成長ぶりこそは、まことに目を瞠るばかりでした。欲を言えばC国選手との死闘が観たいところでしたが、ともあれ女子柔道の悲願といわれた最重量級での「金」を齎した塚田選手によって「ニッポン女子柔道」の歴史が、新たに書き換えられることになりました。
男子柔道
かつての無差別級である男子柔道の最重量級は「世界最強の男」を決めるクラスとして、かつては「柔道ニッポンの聖域」でしたが、その「聖域」も前回シドニー五輪におけるアホな審判のオオボケ判定により、不当にも金を捥ぎ取られた篠原選手の不運などもあって、88年ソウル大会の斉藤選手以来、三大会連続して外人選手に浚われ有名無実と化しつつある危機的な状況でした。
そんな中で柔道関係者の期待を一身に担って登場してきたのが、昨年の世界選手権王者である鈴木選手です。
《男子無差別級の鈴木選手。この大会に出場が決まるまでに様々な紆余曲折のドラマがあったようですが、そうした苦難の道を乗り越えてきた人特有の、勝った時のあのえもいわれぬ表情が良かった。他の階級とは違いニッポン柔道の中でも「聖域」といえる、この階級の代表選手には想像を絶するプレッシャーがあることは素人目にも容易に想像がつきますが、静かなる闘志でそれを跳ね除けたばかりでなく、とかく見所のないオシクラまんじゅうに終わってしまいがちな無差別級にあって、高度な技のキレも抜群に眼を惹くものがありました》
これは、昨年の世界選手権の時に書いた雑感ですが、世界王者とはいえ井上選手や棟田選手といった強豪犇くこのクラスで、代表の座を獲得するのは容易ではありません。厳しい国内の大会ではあの井上選手をも破って来た事からも、この鈴木選手の最近の充実ぶりを窺い知る事が出来ます。
前日は、その井上選手のまさかの醜態で「ミスター・ニッポン」たる立場の鈴木選手には、疑いなく想像を絶するようなプレッシャーが圧し掛かってきていたはずですが、それを感じさせないようなあのやんちゃなガキ大将のような飄々とした表情に、意欲的に輝く双眸が実に頼もしく見えます。
フランケンシュタインのような巨漢揃いのこのクラスにあって、鈴木選手は体格的には相当なハンディがありますが「柔よく剛を制す」の基本通り、小さい体でも抜群の技のキレで化け物のような相手を薙ぎ倒していくのが鈴木選手の真骨頂であり、最重量級でこれほどのフットワークと技の切れる選手は、長年柔道を見続けているワタクシにも殆ど記憶がないくらいのものです。
7日間に渡った柔道競技の最後を締めくくるような、鮮やかな一本勝ちの快進撃を続ける鈴木選手からは、傍目にはプレッシャーを楽しむ余裕すら感じられ、一発のある選手が揃ったクラスの中で強さと美しさを兼ね備えた安定した柔道で、見事に大任を果たしてのけたのは立派の一言に尽きるでしょう。
これで柔道競技は総て終わり、男女各7階級で
男子 金3.銀1
女子 金5.銀1
という思ってもみなかった、過去に前例のないとてつもない好成績で幕を閉じることになりました。
男子の方はまあ順当と言えるでしょうが、女子の5階級制覇は今の7階級制度が続く限り、永久に破られる事はないのではないかというくらいの驚異的な記録であり、日下部選手がメダルを獲得していれば全階級がメダリストとなっていた事が惜しまれます。とはいえ、これ以上を望むのは罰が当たろうというものでしょう。
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