『A高』の同窓には非常に個性的な学生が多かったが、特に印象に残った顔ぶれを挙げるとするなら御曹司、フクザワ、ゴトー、明日香、カオリ、みどり、茜といったところだ。
が、何と言ってもマザーとともに真っ先に挙げられるのが、お嬢である。とにかく、規格外れの自由奔放な振る舞いは当初から際立っており、学生時代のみならずこれまでの半生を通じても、これだけ自らの信念に忠実に生き続けた人物は、未だに見た事がない。
(間違っても、親しくなりたくないタイプだ・・・)
という思いは、誰しも同じだったハズだ。しかしながら同じ学校に入学したからには、否応なく3年間付き合わされる宿命である。幸いにして一度も同じクラスになる事もなく、常に距離をおいてこの台風娘を眺めている事が出来たが、彼女の巻き起こす数々の騒動を見るにつけ、次第に
(一人くらいは、こんな天衣無縫な人間がいるのも面白いものだ・・・)
と思うまでに、お嬢を見る目が変化した。
確かにトンデモ女には違いないが、あたかもドラマを見るが如くに自分が被害を受けない限り、これ以上に刺激的な存在はまたとなかった。
同じ演劇部の部長として、最も「被害に遭った」フクザワなどは
「喰うか食われるかのような日々だったぜ・・・」
と心底憎んでいるようだったから、被害の当事者になってみればとてもそんな甘っちょろい感情には浸っていられなかった、という事だったろうが。
お嬢のヒステリーについては、恐らく
(幾らヒステリーとはいえ、たかが女子高生一人なのに、なんで皆そこまで恐れるのか?)
と疑問に思うかもしれないが、実のところこのお嬢の感情の爆発ぶりというのが、ちょっと普通では想像も付かないくらい、尋常ならざるものだったらしい。
中でも、このお嬢の怒りが最大に爆発したのは、言うまでもなく「学園祭・文化アピール」時であった。
「一体、アイツは何様のつもりなのよ!
あんな嫌味なヤツ、さっさとくたばっちゃえ!!」
と大声で喚いていた時は、さすがに誰しも真っ青になったとか。
さすがにこの発言だけは、日頃はお嬢びいきの教師らからも、かなり問題視された(ま、当然の事だが)
ところが、主任のベテラン教諭から事情聴取を受けたお嬢は
「あれは、ただのセリフの練習でしたけど・・・」
と澄まして言い放ったのみで、まったく取り付くシマがなかったらしい。こう開き直られては
「東大出社長の令嬢、成績も優秀・・・加えて、誇り高きお嬢」
には、不思議とどの教師も弱腰となった。
(親の事は、関係ないだろう)
と幾ら言ったところで、教師(に限らず宮仕えなら)と言うのは得てしてこうしたものに弱い生き物なのだから仕方ない。加えて、お嬢自身がそうした文句をどうにも言い難いような、独特のオーラを身に纏ったタイプだったようだ。
一度、お嬢嫌いのイナカ教師から、人格否定紛いにこっ酷く叱られた事があったらしく、その時は大激怒した。
「なによ、もー。偉そうに私に説教するな!
どーせアイツはイナカ者で、コンプの塊なんでしょ。
だから優秀な生徒にジェラシーをぶつけて、歪んだコンプを満たしてカタルシスを得るのが、生き甲斐なのさ。あのイナカものの、出来損ないジジーが ∑( ̄皿 ̄;;キィィィィィィィィィィィ!!! 」
と芝居のセリフよろしく聞えよがしの大声で怒りをぶちまけたらしい
ある男子生徒が、勇を鼓して
「そんだけデカイ声で言ったら、向こうに丸聞こえだぞ」
恐る恐る言うと
「聞こえるように言ってんだよー、バーカ!」
と、平然と言ってのけたらしい (/||| ̄▽)/ゲッ!!!
「あんなイナカジジイは、離島の林間学校に飛ばしてやるわ」
と罵られたその教師は、皮肉にもにゃべらの卒業の年に、本当に離島の最果て校に異動となってしまった ( ´艸`)ムププ
ところで、フクザワ以前に一年生の時からお嬢とは犬猿の仲として知られていたのが、あのヒムロだった。
同じクラスだった1年生の時は、ヒムロが前期の委員長を務めていたが、議事進行に何かと口を挟む事の多かったお嬢に、業を煮やしたヒムロが
「ええ加減にせーや!
オマエはそもそも、何様のつもりなんや!!」
と怒鳴りつけると
「『オマエ』とは何よ、『オマエ』とは!
アンタみないな偏屈に「オマエ」呼ばわりされる言われはないわ!
侮辱するな!」
と激怒して大喧嘩となり、以来口も聞かぬ仲になったと言われた(クラスメート証言)
「あまりのお嬢の剣幕に、あの口八丁のヒムロも引きつっていたのは大笑いだった」
と怖気を振るっていたが、後期に今度はお嬢が委員長となり教壇に立つ時は、ヒムロはいつも鼾をかいて居眠りを始めたらしい ゚(。 _ _)。o○グー
そして2年生で、文理クラス分けとなる時には
「あー、これで関西弁の貧弱なイモザルと、永久に同じクラスにならないかと思うと、清々するわー。嬉しーっ!!!」
と絶叫したらしい。
そのお嬢の受験は、その学力やプライドから当然『文Ⅲ』狙いと思われたが、(お嬢からすれば)レベル落ちの『T外国語大』だった。
ちなみに、このお嬢は最も早く「英検準1級」を獲っていた事からもわかるが、英語力ではカトー、梓らとともに学年でも頭抜けていた。
私立は『ICU』の語学と英文は新聞で確認したが、未発表分の『K大』、『J大』の外国語辺りも受けたに違いない。
結局、注目された進学先がわからずじまいに終わったのは、心残りというべきか。この顔ぶれから『T外語大』となるところだろうが、なにせ他の庶民とは違い「就職」の心配がないうえ、あの稀代のヒネクレお嬢だけに、どのような選択をしたかまるで予想が付かなかった。
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