第4部:謝肉祭の市(夕景)
千変万化に移り変わる、多彩な音楽が素晴らしい。
『ぺトルーシュカ』で、一躍世に出た不世出の天才ダンサー・ニジンスキーだったが、20代前半にして精神の病に冒されたため、早々に表舞台から姿を消してしまわなければならなくなった。その後、60歳を過ぎて亡くなるまでの30数年間を廃人のようにして、病院で療養生活を送るという悲劇に見舞われたのだった。
つまりディアギレフに見出されてから、実質的に活躍をしたのは4年足らずというほんの僅かな期間であるわけだが、それにも関わらず今でも「伝説の天才バレエダンサー」としてその名が轟いているところからも、いかにこの稀代の天才ダンサーの才能が圧倒的に突出したものであったか、がわかる。もっとも現代に生きる我々にとっては、この不世出のバレエダンサーの踊りというものを、映像で見る事さえ叶わないのではあるのだが。
第4部:謝肉祭の市(夕景) 第4場(終幕)
再び市場の場面、行き交う人々。オーケストラは巨大なアコーディオンと化し、色とりどりの舞曲を導き出す。中でも最も有名なのは、ロシア民謡「ピーテル街道に沿って」に基づく最初の舞曲《乳母たちの舞曲》である。そして熊と熊使い、遊び人の商人とジプシー娘たち、馭者と馬丁たち、そして仮装した人々が交互に現われる。
お祭り騒ぎが頂点に達し(かなり時間が経ってから)、人形劇場から叫び声が上がる。突然ペトルーシュカが、刃物を手にしたムーア人に追い立てられて舞台を走り抜ける。ムーア人がペトルーシュカに追いついて斬殺すると、人だかりが凍りつく(ここでムーア人は、人の心の苦しみに無常で冷淡な世間の暗喩となる)
市場の警官は老魔術師を尋問し、ペトルーシュカの遺体のおがくずを振って取り出し、ペトルーシュカがただのパペットであるとみんなを納得させ、平静を取り戻してはどうかともちかける。
夜の帳が降りて群集も掻き消え、魔術師はぐにゃぐにゃしたペトルーシュカのむくろを担ぎながら去ろうとすると、ペトルーシュカの死霊が人形劇場の屋根の上に現われ、ペトルーシュカの雄叫びは今や怒りに満ちた抗議となる。ただ独り取り残された老魔術師は、ペトルーシュカの亡霊を目の当たりにして、恐れをなす。魔術師は慌てて逃げ出し、わが身の不安を感じて怯えた表情を浮かべる。場内は静まり返り、聴衆に謎を残したまま閉幕となる。
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