ベートーヴェン 交響曲第6番『田園』第1楽章

第1楽章 ＜田舎へ着いた時の晴れやかな気分の目覚め

　ヴァイオリンによる第一主題で、そーっと始まる。

　第5と同じで、いきなり第一主題がヴァイオリンで提示される。

　穏やかに流れるメロディーで、これがこの楽章だけでなく全体のイメージを決める。

　しかもこのテーマは4小節からなるもので、その最後の音はフェルマータで伸ばすところは『運命』の動機と、非常に似ている。

　いかにも田舎に着いたという、安らかな感じだ。

　この第一主題が少しづつ変形されたメロディが続き、大変に美しい。

　展開部もこの第一主題が中心で、最後までこのテーマが支配する。

　ドイツの田舎町・ボンに生まれ、ウィーンに出てきたベートーヴェン少年は即興演奏を得意とするピアニストとして、華麗なデビューを飾った。

　が、華やかに持て囃された時代は短く、30歳近くになると耳の病気に冒され、自分の弾くピアノの音さえも満足に聴き取れなくなっていった。

　20代の始めにウィーンに出てきたころは、おしゃれで社交家のベートーヴェン少年だったが、音楽家にとって命綱とも言うべき「耳が聴こえない」事実を他人に知られることを極度に恐れた。

　言うまでもなく、音楽家としての信用が地に堕ちてしまうからである。

　そうして心ならずも人間嫌いを装い、自然の中に逃避したベートーヴェンは、誰も知る者のいない自然の中に己の安息の場を見つけると、次第に自然を愛するようになっていく。　

　そんなベートーヴェンによる「自然賛歌」が、この第6交響曲である。

　<ベートーヴェンの中期の代表作の一つで、交響曲第5番『運命』と時を同じくして生まれた、双生児のような作品である。

　絶望の淵をさまよった彼が、葛藤の末その苦難を克服して再び創作意欲に駆られた時期で、もっとも力強い作品群が生まれた時期だけに、ベートーヴェンのイメージを強く形成している激しさが前面に出ている曲が多い中で、この曲だけは趣を異にしている。

　この曲は全5楽章から構成されており、それぞれにベートーヴェンの付けた標題が付いている。

　後のベルリオーズやリストらに繋がる、今日の「標題音楽」の嚆矢と見てよいだろう>

　<交響曲第5番「運命」と同じ年に完成し「運命」と「田園」は兄弟のように誕生しました。

　「運命」が一音の無駄もないと感じさせるように簡潔に濃縮され、一小節ごとに変化する音楽が精神的な迫力をもっているのに対し「田園」は伸びやかな気分でリラックスした流れを持ち「運命」が作り出した音の論理性から考えると全く正反対である、詩的な標題まで持っています。

　しかし、誤解してはいけないのです。

　「田園」は、決して安っぽい標題音楽ではありません。

　旋律の展開技法は隅々まで考え抜かれ「運命」とは別世界の統一のとれた世界を創り上げています>

　<最初に出てくる第一主題が、曲全体を支配する最も重要な要素であるという、ベートーベンのソナタ形式であることは明らかです>