2003/09/05

奈良のボロ宿 (古都へpart11) Ψ(ーωー)Ψ


 長く続く参道。無数の燈篭が、闇の中で光を放つ光景は夢幻的であった。ところが、参道をようやく歩き切り本殿拝観受付の前まで来たところで、そこに並ぶ長蛇の列を見てウンザリとしたがために、遂に本殿の釣燈篭を拝むことなく引き返すことにしてしまった。

盆地・奈良の蒸し暑い真夏の炎天下を延々と歩き続け、この日の万歩計のカウンターは既に4万歩を楽に超えていた。歩数だけでなく、若草山に登ったり寺社の傾斜のキツイ石段ばかりだから、実際にはこれの倍以上の疲れがあるのに加え、旅もこの日で4日目。観光に欲張り、普段は起きないような早朝から起きて行動して来ていた寝不足も重なっていただけに、さすがの体力自慢もこの時ばかりは少々疲れ気味だ。そこへ持ってきてあの人だかりの多さがダメを押した形になったが、後にTVで釣燈篭に一斉に灯の入った幻想的な画像を目にした時は

(やっぱりあの時、死んでもいいから観ておくんだった・・・)

と、悔いを千載に残す事になるのである。


ともあれ、その日はしつこく勧誘してくる人力車の兄ちゃんをあしらうと、疲れた身体に鞭打ちながらどうにか宿に戻る。当時は、まだインターネットなどは一般に普及していないご時世だから、見知らぬ旅先の宿はホテルガイドブックか旅行雑誌の広告辺りから見つけるしか手はなく、この日の宿泊先も雑誌の広告で見ていい加減に決めた旅館ともホテルとも付かぬ、中途半端な宿だった。  

宿に付くと気が緩んだせいか、改めて真夏の炎天下の山中を4万歩以上歩いて来た疲れが、ドッと押し寄せてくる。ワタクシの人一倍長い足では一歩が1m近くはあろうと思われるから、距離に換算すれば凡そ30km以上。つまり半日掛かりで、難コースのフルマラソンを歩いて来たようなものである。

お茶を持ってきた仲居から

(お部屋にもバスが付いておりますがちょっと狭いと思いますので、よろしければ「大浴場」をご利用ください)

と訊いたので

「ほほぉ・・・(こんなしけた宿に)「大浴場」なんてものがあるんだ・・・?」  

「まあ、大浴場と言うほどに大きくはありませんが・・・」

何はともあれ早速「大浴場」へ行くと、どうやら「大浴場」とは名ばかりの湯船の方からは、先客の若い女性のものらしき2人の明るい嬌声が聞こえてきた。浴場はこれ一つで、男女兼用になっているらしい。

(へ~、こんなシケタ宿に若い女が二人とは珍しいな・・・)

辺りを見回すと、順番待ちの椅子とマンガや雑誌などが置かれてある。マンガや雑誌には興味のないから、椅子に腰掛けてボンヤリと待つ事に決めかけたが、考えてみれば中に入っているのはあの声からして女子大生くらいの若い女性が2人である。そして当たり前の事だが、こうしてこの椅子にボンヤリ腰掛けているからには、やがて風呂上がりの2人の女性とバッタリと顔を合わせるという理屈になる。

そう考えると

(どんなのが出てくるかいな・・・?)

という好奇心は否定しないものの、やはりその時のバツの悪さを考え部屋に引き上げる事にした。あのハシャギップリでは、まだしばらくは出てきそうにないだろうから、なにもやる事のない部屋で野球中継など観ながらしばらくゴロゴロした後に

(いくらなんでも、もう出てるだろう・・・)

と、チト惜しい事をした気がしながらも頃合を見計らって浴室へ行くと、タイミング悪く(良く?)ちょうど風呂から上がって来た女子高生くらいの、見るからに地方からやって来たような素朴な雰囲気の幼さの残る娘2人が、頭にタオルを巻きつけたバスローブ姿の火照った顔で、ちょうど出てきたところに出くわしてしまったのだった。

(こりゃ最悪・・・)

と思ったが今更引っ込みがつかずボンヤリと座っていると、あれほどハシャイでいた2人は、予想外の色男(或いは怪し気な男?)の出現に戸惑ったか、急にピタリと口を閉ざしたまま、俯き加減にそそくさと脇を通り抜けて行く。  それでも、後の方にいたコが

「お先で~す!
あ・・・お湯、全部入れ替えておきましたのでー」

と、声を掛けてくれたのは気が利いていた。

「そりゃどうも。ありがとー」

と声を返すと、今度はもう一人の娘も一緒に

「ごゆっくりー」

と、声を掛けてくれた。

それにしても誰が入ってくるかわからぬ脱衣所に、部屋の鍵を置きっ放しにしている2人連れにも驚かされたが、ライトアップから戻った夜10時くらいのフロントが早々に無人になっていて、外出客のものらしきキーが幾つか並べて置いてあったのも併せ

(やっぱ、奈良ってところは万事が大らかなんだな)

と、変な具合に感心せざるを得なかった。

さて、ようやくの事でありついた「大浴場」は、どこにでもありそうな家庭風呂に多少毛の生えた程度のショボイ代物で、人一倍デリケートなワタクシは  

(こんな、誰が入ったかわからんような湯舟なんて・・・)

と普段ならまず入る事はありえなかったが、なにせこの時ばかりは例外的に疲れた体が欲求に負けた。病気を移されてもいいという決死の覚悟(?)で風呂に入ったお蔭で、一遍に疲れが吹き飛んでサッパリした感じになり

(さあ、後は寝るだけや!)

とベッドに入ると、長風呂で火照った体からジワジワと汗が滲み出して来る。  なんとも信じ難い事に、いつの間にやら冷房が切られているらしいのだ。クレームをつけるべきか迷ったが、見知らぬ旅先で夜中に無人のフロントを叩き起こして揉めるのも気が進まず

(郷に入っては郷に従えか・・・)

とばかり開き直って窓を開け放ってはみたものの、風のない盆地の蒸し暑い夜だけに暑さで、まったく寝られるものではない。暑くて喉が渇くためか、階段下に備え付けてあった冷たい麦茶が、これまで飲んだ事がないくらいに旨く感じられて何杯も飲んでしまい、余計に汗が出て寝られない。こうした悪循環を繰り返し眠れぬ夜を悶々と過ごした挙句、開け放っていた窓辺にハトとスズメが群れをなしてコーラスを始めた早暁に叩き起こされるハメに Ψ(ーωー)Ψ

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