奈良の名物といえば、なんと言っても鹿である。
小学生時代に親に連れて行かれたのと修学旅行を併せると三度くらいは奈良に行ったはずだったが、奈良で記憶に残っているのは鹿くらいのものである。
興福寺辺りから奈良公園、春日大社、東大寺に至る一帯で観光客らしき人々が鹿に追いかけられながら、せんべいを手に悲鳴をあげている光景は懐かしい記憶にオーバーラップする。
鹿は人間に良く似ているといわれるが、確かに頭が良いのか同じようにせんべいを持っていても、子供や若い女性相手にはストーカーのように徹底的に付き纏いながら追いかけていくが、ムクツケキ青年やオジサンは最も警戒の対象なのか諦めが早い。さらに不思議なのは、まだ客の手に渡る前のせんべいには、クビを伸ばせば充分届くところに置いてあるにもかかわらず、絶対に手を出さないことだ。それが金を払って客の手に渡った途端、お辞儀をしながら寄って来るところなどは、いかにも躾が行き届いていると感じる。それでも少しは野性が残っているから、油断していると子供や老人などには時折、凶暴な姿を見せる事もある。
かつてこの鹿は神の遣いとされ、鹿を殺した罰で死罪や生き埋めにされた例も珍しくなかったくらい、非常に大切にされてきた。家の前で鹿が死んでいるだけで厳罰に処されるため、朝早く起きて死んでいる鹿をよその家の前まで引きずっていったなどというエピソードもあり
「早起きは三文の得(徳)」
という諺はここから始まったとも言われている。この諺は、元々が
「朝早く起きたからといって、三文程度の得にしかならない」
という逆の意味である事から考えると、ホンマかいなとも思うが。そうして大事にされてきた奈良の鹿だが、あまり大事にされすぎてきたせいか、或いは天敵だった狼が開発とともに山の奥深くへとテリトリーを変えたいったためか、年々頭数が増えて来ているらしい。最近では、世界遺産に登録された春日山原始林にある貴重な植物を好物として食べまくった結果、特定の植物が絶滅の危機に瀕する結果となり、遂には「間引き」も本格的に検討されるなど問題を抱えているとも言われる。天然記念物の奈良の鹿といえど、国宝や世界遺産には代えられないという事だろうか。
<奈良公園内の大部分は芝生に覆われ、約1200頭に上る鹿が放し飼いされている。彼らは観光客に愛嬌を振りまき、首を縦に振って鹿せんべいをねだる姿が人気を集めている。なお、この公園に鹿が放し飼いされていることには、以下のような由来がある。
すなわち鹿は春日大社の神使であり、春日大社創建の際、茨城県にある鹿島神宮の祭神・武甕槌命が神鹿に乗ってやってきたと伝えられる(春日大社は、鹿島含め3社の分霊)。それゆえ、奈良公園の鹿は古くから手厚く保護されてきており、不慮の事故も含め殺めると厳しい刑罰を受けた。
伝説によると、誤って文鎮で鹿を殺してしまった子供が鹿の死骸とともに生き埋めとなり、その墓が奈良公園周辺に残っている。今でも地元の住民は、鹿に愛着の念と共に畏敬の念を併せ持つといわれる。この鹿は野生による繁殖で、基本的には餌付けされていない。その上、神格化していたために、手厚い保護の下で個体数を増やしていった。しかし明治維新からは手厚い保護への反発から、戦中から戦後しばらくの間は食糧確保のため狩られ、その結果頭数が二桁まで激減した。
その後は奈良市が「財団法人
奈良の鹿愛護会」を作り保護に努め、その結果今日の生息数に至っている。この鹿は野生鹿として国の天然記念物に定められており、故意に傷を付けたり悪戯したりした場合は、文化財保護法違反の罪で罰せられる。その一方で、近年は観光客が運転する乗用車と鹿の衝突、接触事故が多発しており(鹿の死因のトップにもなっている)、奈良公園界隈の道路では、常に鹿の飛び出しに注意を払う必要がある。
「鹿の飛び出し注意」という交通標識まで存在する。最近では、心無い者によって、鹿が危害を加えられる事件も多い。また奈良公園では、鹿が道路を横断して交通を妨げたり、付近の家や敷地に入り込む光景がしばしば見られる。遠くは奈良県庁の庭にも、稀に近鉄奈良駅までやってくる事もある。深夜にはかなり遠出もしているようで、JR奈良駅周辺にも出没することがある。過去には、JRの踏切で鹿が電車に撥ねられたこともあるようだ。
奈良の鹿については、保護団体である「奈良の鹿愛護会」が毎年調査しており、2008年発表の調査によれば全1128頭(前年比33頭減)、内オス262頭、メス695頭、仔鹿171頭である(暫定)。死亡原因は疾病174頭、交通事故71頭、犬18頭等となっている。最近では「奈良の鹿愛護会」の財源不足が深刻であり、観光客に鹿せんべいの購入を積極的に勧めるなどの活動をしているが、根本的な解決には至っていないのが現状となっている。特に観光客が他所の店で買ってきた菓子などを大量に与える例も多く、問題化している>
また京都・嵐山の「法輪寺」という寺院でも、かつての漆の産地を復活させようと100本ほどの漆の木を植えたところ、たちまち野生の鹿が現れては次々と新芽を食べてしまい、関係者が頭を抱えているという話もあったが、増えすぎた鹿の害が各所で生態系に影響を及ぼしているようでもある。
それはともかくとして、当時はそんな事は知らない暢気な観光客たるワタクシとしては、同じせんべいをあげるなら毛並みの艶々とした可愛いバンビちゃんを選んでやりたいところだったものの、案に相違して傍に寄って来るのは図体がデカク毛並みの色褪せた年寄り鹿ばかりであった。若くて綺麗なのは、放っておいても相手の方で寄って来るからどれもおっとり構えているが、容姿の劣ったご老体はボンヤリ待っていてはいつエサにありつけるかわからない、という危機意識が強い分だけ厚かましくなるところなどは、我が人類とそっくりですな
( ´∀`)タハ
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