阪神と言えば甲子園、そして甲子園といえば、名物「ジェット風船」が頭に浮かぶ。
実のところ、ジェット風船を飛ばす応援を最初に始めたのは阪神ではなく広島だったらしいが、1985年の阪神優勝時に甲子園を埋め尽くした阪神ファンが一斉に放った印象が強いせいか、阪神の応援の代名詞的なイメージで捉えられがちである。
かつて、有馬温泉に旅をした時のこと。
たまたまネットで見つけた宿泊先が、甲子園球場の直ぐ傍だった。
子供の頃からのG党であり、したがって阪神嫌いだから西宮というホテルの住所を耳にしながら、終ぞ「阪神」という考えに頭が及ばなかったのだったが、既にしてこの時期にはセリーグのトップを独走する快進撃をしていた阪神(2003年)だけに、地元の盛り上がりようは半端ではなかった。
さらに偶然にも、当日は甲子園に広島を迎えゲームをしている日に出くわす格好となり、図らずもあの腹にズシーンと響くようなナマの大歓声に包まれ
「やっぱ、ナマの迫力は違うわ」
などと、妙に感心させられたりした。
そうしてしばらく甲子園の前に佇んでいると、TVのような実況がないために試合展開がどうなっているのかは皆目わからないものの、時折大波が押し寄せるような大歓声と、応援歌とオボシキ合唱が聞こえてきた。
阪神甲子園駅前のコンビニで、弁当を買ってホテルにチェックインしたのが、夜の8時過ぎ。
TVをつけると先程外から窺った試合が中継されており、ちょうどタイミングよく6回裏の阪神の攻撃中だった。
(折角だから、名物のジェット風船が乱舞する様をナマで観てくるか・・・)
などとボンヤリ考えながら、弁当をぱくついているうちに試合は早い展開で進行し、7回の広島の攻撃に移ってきた。
この日は、早朝から武庫川⇒西宮⇒芦屋⇒神戸⇒有馬温泉と廻った強行軍の疲れで、畳の懐かしい薫りの和室に大の字になって寝転がっていたい誘惑に駆られたが
(しかしナマで観られるチャンスなんて、そうそうないからな・・・)
と思い直し、疲れた身体に鞭打ちながらホテルを出ると、ほんの目と鼻の先に甲子園球場がある。
いつもTVの巨人戦で観ている、あの色とりどりの風船がフワフワと夜空に舞い上がっていく幻想的な光景を期待してたが、実際に球場外から肉眼で見えるのはほんの数えるほどで、すっかり拍子抜けがしたものだった。
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翌朝、次の旅程に向けてホテルでの朝食を済ませて7時過ぎには早々にホテルを後にし、まずは甲子園のグルリを散歩してみる。
朝っぱらから残飯を求めて跳梁するカラスの群れの足元には、例の色とりどりのゴム風船の残骸がアチラコチラに散らばり、制服姿のオネーさんが掃除をしていた。
そういえば前の日のコンビニで、このジェット風船の「2つ入り50円」とかで目にしたが、この宴の後の白々しいような朝の光景を眺めているうちに、知らず知らずワタクシの頭が、実にクダラナイ計算を勝手に始めてしまった・・・
その計算とは、こうだ。
甲子園の観客を5万人として、この殆んどが阪神ファンだろうから単純にこの5万人が50円也の件のジェット風船を買い求めたとすると
50,000×50=2,500,000
つまり1試合で250万となる。
キリのいいところで、60円として計算すれば300万だ。
さらに敷衍して、阪神主催のゲームは年間約70試合だから
3,000,000×70=210,000,000
ナント、2億1千万円!!!
たかだかひと昔前の、駄菓子屋のおまけのようなチンケなあのゴム風船が、この甲子園という魔物のおかげで、年間2億円もの売り上げを産み出そうとは、いかに薄利多売とはいえ原価はただに近いのだろうから、結構な商売である。
まことに恐るべしは、熱狂的な阪神ファンと関西商法(?)だ。
《阪神営業担当者の話では、1試合での風船売り上げは200万円以上。
ソフトバンク担当者の話でも150万円から200万円が入ってくるという。
この風船、1回飛ばせばその場限りで再使用は不可能だから、次に球場に来た客は再び購入することになる。
こんなボロい商売はない。
しかもファンにとっては今や、この風船飛ばしが野球観戦の楽しみの1つとして、完全に定着しているのである。
※2010年追記
マツダスタジアムは、球場フェンスを越えて隣接するJR線路内に飛び込まないように、と飛距離の短い(要するにあまり飛ばない)新型風船まで作ってファンのニーズに応えている》とか。
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