フリーランサーで仕事をしていた時のこと。
当時、巷に《グルメブーム》というのが起こり
「行列の出来る店」
「究極のナントカ」
といった企画が、マスコミでも持て囃されていた。
その頃、フリーライターとして、地元のローカル紙の紙面において週間で1ページの企画物を任されていたワタクシも、このブームに便乗した一人であった。
当時、何本ものグルメ記事で紙面を埋め尽くして来たが、その中に
《究極のラーメン特集!》
というのをやった。
その名の通り、他店にないようなオリジナルで風変わりなラーメンを食わせる店を紹介する企画で、幾つかのラーメンを採り上げたが、その中でメインに持ってきたのがC国料理店チェーン店《xx園》の「フカヒレラーメン」(2000円也)だった。
「2000円のラーメン」なら今でも相当な高値だが、都会のラーメンの標準価格が500円程度のひと昔も前の話だから、いかに高価だったことか想像願いたい。
この企画の直後、某新聞社の編集部長から
「この前の《ラーメン特集》の企画の中に《フカヒレラーメン》ってのがあったろう。
あれを別のコーナーでデカく紹介したいから、もう1回取材してきてくれねーか?」
と、お達しが舞い込んで来た。
当たり前の事だが、飲食店の記事を書くのに、わざわざその店の料理を食べる事は滅多にない。
そもそも、こうした特集記事の取材ともなれば、1日数件の店を取材に廻らなければならないから、とてもそれだけの量を全部は食べきれないし、また零細プロダクションから貰う安いギャラでは、到底これらの店の料理を自腹で食べるには、追いつくはずがなかった。
また、たいした部数の出ていないローカル紙の取材だから、有名テレビ局のように先方からタダで提供してくれる、というようなことは奇跡に近い確率だった。
が、中には気前の良い主人がいたりして
「ゴチャゴチャと口で説明するよりは、食べてもらった方がわかると思うから、食べて行ってよー!」
などと言ってくれるようなケースも稀にあったが、食べたところで実際の感想をそのままに書くわけには行かないので辞退していたし、例外的に食べる場合も客として勘定は払う事にしていた(口煩い編集長から、常々「ただ食いはいかんぞ!」と釘を刺されていたこともあった)
ところが、この《xx園》へ取材に訪れた時は、見るからに欲の深そうなチャイナ人の小太りのオヤジ(店長)が出てきて、取材が進むうち
「ちょっと失礼あるね!」
と消えたかと思うと、頼んでもいないのに、この店の売り物である例の「フカヒレラーメン」を持ってきたではないか ( ̄ェ ̄;) エッ?
まさか
「要らなかったのに・・・」
などという訳にもいかないし、また言ったところで現実にもう出来上がってしまったものは、元には戻らない。
「まあ、食べてみなされ」
「いや、わざわざ作ってくれなくとも良かったんだけど・・・」
「食べなきゃ、本当のところはわからないあるよ。
延びないうちに、食べる事ある・・・」
そうまで言われては、食べるしかない。
こんな高価なのを、試食用にわざわざ作ってくれなくてもという思いと、テーブル越しにジーッと見つめるオヤジの視線も気になって、どうにも喉を通り難いので形ばかり食べておく。
確かに、鱶の姿煮を惜しげもなく丸ごとぶち込んだ風味と、ジンワリ染み込んだ味はなかなかに旨かったが、2000円もの大枚を払ってラーメンを喰う気はないこちらとしては
(どうせこっちはタダだからいいようなもんだが、こんなラーメンなんぞに2000円も払う酔狂なオタクがいるのかいな?)
と、腹の中でせせら笑っていたものだった・・・
そうこうするうちに取材が終わり、見送りに来てくれたオヤジを
(やけに愛想がいいじゃないか・・・)
と訝りながらも
「どうも。
高価なラーメンをごちそうさまでしたー」
と、礼を言って帰ろうとすると
「ハイ、フカヒレラーメン2000円あるね!」
「は?
もうメモしましたよ。
しっかり憶えてますって・・・」
と応えてから
(もしや・・・)
と、嫌な予感に思い至った。
「あのね・・・お代がまだあるね」
「え?
お代って?
さっきのって、金払うの・・・?
普通はこういうのは、タダでいいって言うもので・・・」
「いや、普通はそうかもだけど、あれには高い材料費が掛かってるあるからねぇ・・・」
とオヤジは当然だといわんばかりの、済ました顔である。
(アホな!
そんならそうと、最初にちゃんと言わんかい!
勝手に出してきたんだから、普通はタダやろーが。
チクショウ、こんな事ならフカヒレスープだって、一滴残らず飲んでおくんだった)
と、ハラワタ煮え繰り返る思いも、後の祭り(after
carnival)
その後、この《xx園》には、一度も食事に足を運んだ事がないのは言うまでもない (ノ-o-)ノ ┫オリャ
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