前年に続き、2度目の大学受験が迫ってきたマッハ。
学習の進捗状況や志望大学といった肝心の情報を一切明かすことなく、相変わらず徹底した秘密主義を貫いていた。
食事時以外は、離れの部屋に閉じ篭りきりで
「大学は、どこを受けるの?」
「ん〜、まだ決めとらん・・・」
「今度は大丈夫なの?」
「ん〜、やってみなわからん・・・」
といった調子の気のない返事が続き、両親もすっかり匙を投げ静観の構えであった。
「ま、いずれにしろ、浪人の面倒みるのは今年限りだからな」
と、オヤジは仏頂面。
世に秘密主義者はゴマンといるが、マッハの場合はかなりの重症だった。
何しろ、普通なら自我に目覚める前の園児時代からして、こんなエピソードがあった。
マッハの通う保育園で、かつて『サルカニ合戦』のイベントが催された。
園最大のイベントとあって、園児の母親たちが三三五五と駆けつけて来る中、マッハ母も近所の園児のママ(A子ママ)さんと連れ立って見物に駆けつけた。
さて、いよいよ『サルカニ合戦』の出し物が始まる。
2人の園児がサルとカニに扮し、残りのその他大勢はこのサル&カニ目掛けて柿(を模したボールのようなもの)をぶつけようと躍起になるが、さすがサル役とカニ役に抜擢された2人の園児の動きはすばしこく、なかなか命中させない。
特にサルに扮した少年のすばしこい動きは群を抜いており、あたかも本物のサルが紛れ込んだかと見紛うばかりので、見物の親たちも惚れ惚れと見惚れるほど。
我が母らも、そんなサル&カニ園児のすばしこさにしばし見惚れていた父母らの一群であったが、ほどなく視力自慢の連れのA子ママが突如
「あれ〜っ!!
ねぇ、ちょっとちょっと!
あのおサルさんの方って、マッハくんじゃないの〜?」
肘を突付かれ、眼を凝らした母もビックリ!
それは紛れもない、我が子マッハの勇姿ではないか。
「なによ〜、もうっ!
あの子ったらそんな事、ひと言も言ってくれなかったから〜!!」
これには連れのA子ママも
「マッハくんも変わった子ね〜!
あんな良い役をもらっていながら、内緒にしてるなんて。
ウチのコだったら1ヶ月も前から、みんなに吹聴して廻るのに〜」
と他人事ながら、大いに地団駄を踏んだものであった。
ことほど左様に、マッハの秘密主義は生まれながらの筋金入り。
高校受験の時も、大学受験の時も両親には一切進路を明かす事がなく、進路相談で学校を訪問した母は、いずれも担任から訊かされ初めてマッハの成績や希望進路を知るハメになった。
また
「マッハくんは大変に足が速く、体育教諭にスカウトされるや陸上部のエースとして大活躍してくれましてね〜。
我が陸上部の地区大会連覇の立役者を演じてくれました」
という話も家庭訪問で初めて訊かされ驚いたもので、地区大会での活躍の件すら幾つもの私立高から「スポーツ特待」でのお誘いがかかったため、初めて知ったというありさまで
「えっ?
そんなに優秀だったの!?」
と、何もかもが寝耳に水という有様だったらしい。
元々そんな男だから、今や19歳と大人の一歩手前まで来た浪人マッハが素直に進路を明かすはずもなく、いつものことながら両親も
「一体、あれはどこを受験するつもりなのかしらね〜?」
などと気を揉んでいたらしい。
さて、浪人生活の奇行続きで心配された兄マッハ。
数学が大の苦手だったため、センターの関門が待ち構えている国公立は回避し、この年は私大のみに絞っての受験。
名古屋の私大最難関といわれる『N大』に合格するや、その余韻冷めやらぬうちに『A学院大』と『C大』にも見事合格した。
「『名大(名古屋大学)』ならともかく、タレントなんぞの行く『A学院』なんぞは浪人してまで行くような大学じゃねーだろ」
予備校に続く私大の月謝の高さと、物価高の東京への仕送りが気に入らないためか、盛んに毒づく頑固オヤジを尻目に、マッハの方は実家から開放されるのが余程嬉しかったのか、例によって住まいとなるアパートなど何から何まで知らぬ間に一人で勝手に決めてしまうと、疾風のようにアッというまに東京・渋谷へと引っ越してしまった。
春から中学生となるにゃべっちは、マッハと入れ替わる形で離れのビルへと引越しの準備。
これで離れには中3生の姉ミーちゃんと、新中学生となるにゃべっち。
母屋の方は、20年振りに両親が水入らずとなった。
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