主任教諭の証言
「にゃべっち君ですか〜。ま、ひとことでいえば、大変にユニークな生徒でしたねぇ。
小学生としては色々な点で非常に優れ、優秀なことはとても優秀でしたが。
入学した時から計算は驚くほど早く、また読み書きも高学年クラス並みで、我々教員の間でも
『何十年に1人の神童だ!』
なんて、ちょっとした話題になったのは今でも鮮明に憶えていますよ。とにかく1~3年生くらいまでは、テストではオール100点満点という具合でした。
こういった子は得てして運動音痴というケースがありがちですが、彼の場合は足も速くスポーツもほぼ万能だったですねー。運動会でもリレーのアンカーでしたし、徒競走も常に1等か悪くても2等でした。まあ、水泳だけは4年生まではカナヅチで、仮病を使って徹底的にサボっていたのには担任も散々、手を焼かされていたようですがね。
そしてもうひとつ、にゃべっち君で眼を引いたのは女の子にも負けないような美少年だったということですね。いつも女の子と間違われるような、都会的な優しい顔立ちで。いえいえ、決して私にヘンな趣味があるわけではありませんです。
性格も明るくて、ふざけるのが好きなヒョウキン者というのでしょうか。まあ時には脱線し過ぎるところもありましたが、そういった事であれだけの神童ながら気取ったようなところはまったくなく、生徒らの間では抜群の人気者でしたねー。リーダーとして、それなりに皆を巧くまとめていたのも感心しましたね。ムラカミやマサといった優等生だけでなく、カツトシやマツモトなどオチこぼれとも案外と仲良くやっていたのは、彼の人望でしょうか。
もっとも、本人がまとめていたという意識はなかったでしょうが、周りが皆にゃべっち君の周囲に自然と集まってくるような、そういった雰囲気が彼にはありました。そういった意味でも、生徒会長としてはかなり異色ですから皆の記憶に残りやすいのではないでしょうか。確かに当時のにゃべっち君からは、ある種の強烈なオーラみたいなものが出ていましたよ。
4年生くらいまでは、他の生徒にとっては雲上人というような飛び抜けた存在でしたが、惜しむらくは能力には人の何倍も恵まれながら大の勉強嫌いで、努力を怠ってきた点ですね。優秀な子に限って、得てして「勉強なんかしたことがない」というのを自慢にしたりすることがあって、実際にはそういう子は蔭で物凄く努力をしているものだったりすることが多々ありますが、にゃべっち君の場合は根っからの怠け者・・・いや、というか筋金入りの勉強嫌いのようでしたね。
なにしろ、作文以外の宿題をやってきたのを見たことがなかった。その作文すらやってこず、私が担任だった4年生の時も始業式に手ぶらでやって来たので叱ったら、その日のうちにやっつけで書いてきたヤツが入選してしまった。それで、翌年だけは真面目に取り組んだのか「全国入選」だから、あれにはまったく恐れ入りました。
5年生くらいからは、いわゆる優等生組の学力がアップしてきて、そろそろにゃべっち君だけが別格という感じはやや薄れてきましたが、それでもまったく勉強している様子もないのに、最後まで悠々トップを通してしまったのは、さすがに別格という感じでしたよ。
6年間を通して、90点以下は一度も取ったことがなかったですが、これはちょっと異例ですな。ただ先ほどと重複しますが、にゃべっち君の場合は成績トップとはいっても普通に考えるような、いわゆる「優等生」という感じとは大きくかけ離れていましたからね。いわゆる「悪ガキ」というのとも違うんですが、おそろしくマイペースというか、周りがどうあろうとマイペースを貫くような頑固なところがありましたね。まあ、この先少し気になるのが
「神童も20歳過ぎればただの人」
と言われるように、中学、高校となっていくにつれ、みなの学力は一気にアップしてきますからね。事実、高学年になってからは、トップ層とは以前ほどの大きな差はなくなってきている、というよりはにゃべっち君がやや落ちて来ている分だけ差が詰まってきている、という見方が正しいでしょうが。中学では人数も増えますし、さしものにゃべっち君にしても小学生時代のように、遊んでいてトップを維持していくのは難しいかもしれません。折角、能力はずば抜けているのだから、成長していくにつれジリ貧になっていかないよう中学生になったら心機一転、頑張って欲しいものです。
校長の証言
あれは確か、入学早々の知能テストの時でしたかな・・・職員室で担当教師らが騒いでおりましてな。凄く点数の高い子がおるんだと。こんな点数は、これまで見たことがないとか言って騒いでおりました。それで、学年主任が
「こういう子は、教育大附属小に通わせた方がいい。公立では勿体ない」
とか熱心に言い出したものですから、私もヒアリングをしましてですな・・・まあ主任はともかく、これは本人やご家庭の決めることだから
「じゃあ、君。
担当教師の家庭訪問に一緒に行って、説明してあげなさい」
と言って、直ぐに行かせました。結局、その話はお流れになりましたが・・・どうも本人が、まったく興味がなかったとかいうことのようでしたな。主任教師などは、後々まで「実に惜しい・・・勿体ない」と未練タラタのようでしたが、こればっかりは本人がその気にならんとね。
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