2003/11/22

京のダメ男(京の錦秋part3)


「泉湧寺窯まつり」とあちこちに幟が翻る坂道をエッチラオッチラと歩きながら、途中で目に入った商店でおでんを食べビールを飲む。20分くらい掛けて坂を登ると、鬱蒼とした樹木に囲まれた人影少ない参道から総門を入る。拝観受付を済ませ、今度は急な坂道を玉砂利を踏みしだきながら降りって行くと、厳かな雰囲気を伴った強烈なインパクトとともに、どっしりと鎮座ましましてい佛殿の堂々たる偉容が現れた時は感動的であった。

山を切り拓いて造ったような、自然に囲まれたロケーションにC国風の大きな重層の屋根を戴いた建築が、ひと際映える。広い境内をしばらく観て廻り、日本庭園へと入る。

<御座所の東南から御殿の南側にかけて、小さな御庭が築かれている。霊明殿・御座所・海会堂そして御陵拝所に取囲まれた御庭は、小さいながらも無比の環境の中に自然と人工の巧の業を織りまぜている。低い築山の裾に曲折する池の汀、控えめに咲くサツキ、真紅の紅葉、薄すらと雪化粧した雪見灯篭に映える梅もどき等々、四季折々に楽しませてくれる>

観賞式庭園を順路に従って歩きながら

(こっちは東福寺とは違い、紅葉するような木がないのか~)

と思っていると、最後に庭園の片隅にあたかも額の絵から切り取ってでも来たかのような、素晴らしくも鮮やかな朱色の一本の木が燦然と輝いているではないか。その色の鮮やかさは、まるで深夜密かに人工的に着色したかと疑ったくらいで、ここまで来た拝観者は一人の例外なしに

(うわ~!
これは素晴らしい・・・)

と感嘆の溜息を漏らしながら、しばし立ち止まって見惚れていた。


境内の桜を総て切り倒して紅葉をする木に植え替えたという東福寺に対し、庭園の片隅に僅かに一木、しかもその一本が滅多にお目にかかることの出来ないくらいに、目にも鮮やかな美しさで拝観者の目を惹きつける泉湧寺庭園という、実に面白い対比が楽しめたのは収穫であった。

ここまでは総てが順調であり、この後例によって東山へ寄り清水寺の周辺を徘徊し、懐かしい気分を味わいながら京を満喫したついでに、清水寺の夜間拝観もこなした。この季節は日中と夕方からの寒暖の差が激しいが、盆地の京都においては尚更で、急激に風が強まり寒くなってきた。

(寒くなってきたし、ぼちぼちホテルに戻るか・・・)

この時点では、まさかこの後に地獄のような状況に追いやられようとは、よもや予想だにしなかった。

 バス停に向かうと、思わぬ長蛇の列が出来ている。

(こりゃ・・・バスに乗れるんかいな・・・?)

と思いつつ、仕方なく寒いのを我慢して列に並んだ。なにせ普段から考えられないくらいに時間にルーズな京都の市バスだが、特に春秋の観光シーズンは輪を掛けて酷く10分、20分と待っていても一向にバスが来ない。ようやく来たと思えばすし詰めの満員で、非情にも寒空に震えながら待っている人々を尻目に素通りしていくという、考えられない非常識さも当たり前のように横行しているのだ。

「次のバスよ~、早く来てくれ~!」

と、いつの間にか真冬並みに冷え込んできた強風と寒さに震えながら待つ皆の切実な思いをヨソに、時間が過ぎても一向にバスは来ない。ようやく来たと思えば満員で素通りしていくか、停まっても降りる人間がいないからほんの数人乗ると、さっさとドアを閉めて発車してしまうのである オ―イ・・ (;´д`)

(まったく・・・どうしてこうどいつもこいつも、思いやりのない運転手ばかりなんだ・・・)

と嘆いてみたところで、どうにもならない。

並んでいる列の前には、大学生風のカップルがいた。女の方がしきりに

「寒いよ~!」

を連発していたが、タクシー代が惜しいらしいショボイもやし男の方は「もうちょい我慢しよーで!」と同じセリフばかりを繰り返していて、関係のないこちらまで内心イライラした。そして甲斐性のない痩せっぽちは、己のケチを棚に上げ

「みんな、なんでタクシーに乗っかへんのかな?
そうすりゃバスが空いて乗れるんやが、誰も乗ってかへんな~」

と、ぼやいているばかりなのだ。

(そもそも大学生たるものが、彼女を誘うのに車の一つも転がしてこんとは、なんたる情けないやっちゃ)

などと腹の中で毒づいていると、ひたすら「寒いよー!」と繰り返していた控え目な(?)女の方も、遂に痺れを切らせたか

「ねぇ。
もうタクシーで帰ろうか?」

と誘い水を向けた。しかし強情我慢な痩せっぽち(というより、単なる貧乏かケチンボ?)は

「よし、ほんならもう一台だけ待とか。今度来たのに乗れへんやったら、タクシー捕まえよーで」

(ホォホォ・・・ようやくタクシーで帰る気になったか・・・これで鬱陶しい会話を聞かされんで済むなら、ありがたい。なにせ次も、また乗れんのは確実だからな・・・)

と心中密かに期待していると、案の定次のバスも虚しく素通りをして行った。  

すると、どうしたことか!

件の痩せっぽち君は、間髪入れず

「もう一台!
もう一台、待ってみようや。
折角ここまで待っとんたんやから、今度こそは絶対乗れる気がするでー」

(オイオイ・・・約束が違うじゃん・・・ここから京都駅までなら、たかだか千円掛かるか掛からんくらいだというのに・・・)

と半ばは予期していた展開とはいえ、最早この恥知らずにはさすがに部外者のワタクシといえど、空いた口が塞がらず

(タクシー代を恵んでやるから、早く消えてくれよ)

と言いたいところだったが、さすがに幾らチャラい学生風情が相手とはいえ、見知らぬ赤の他人にそこまでするのは躊躇われ、仕方なく静観を決め続けた。

ところでワタクシ自身が何故乗らないかといえば、ひたすらタクシー嫌いのためである。普段なら、この程度の距離はなんなく歩いても行くものの、この時はあまりの寒さに歩く気も失せていたのだったが、結果的にここまで酷い事になるとわかっていたなら、歩いた方が早かった。

そうこうしているうちに、次のバスがやって来るとワタクシも件のバカップルも、数台目にしてようやくにして乗るスペースが出来た。

「ああやっと乗れたわ。これがアカンかったら、ホンマにタクシーで帰る積もりやったが・・・あれだけ待たされたんやから、今更乗らな損やからな~」

などと吹いていた。

(なにホザイてるんだ、このドケチ坊めが!
あの調子で凍死するまで、10台でも待ってたんだろーが)

と思わず腹の中で毒づいてしまったが、女の方はすっかり疲れと寒さで憔悴しきったような様子が哀れを誘った Ψ(ーωー)Ψ

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