2学期に入ると、2人の転校生がやって来た。9月半ばに、にゃべ属する6組に転入してきたのがヒトミ少年である。
「今度来るコは、とってもよーデキるみたいだぞー。にゃべやオーミヤも、負けんように頑張らんと・・・」
と、あの滅多に生徒を誉めないことでは人後に落ちない鬼女史も、珍しく相当に高く評価していた。そして実際にやって来たヒトミは、にゃべと争うようなパッチリとした二重瞼の大きな眼と、フッサリとした長い睫を持った女っぽい顔立ちをした仲々の美少年だっただけに、早速ちょっとした注目の的に。だが、そうした外見とは裏腹に、驚くべき神経の図太さ(正確には、厚かましさ?)を如何なく発揮し、たちまちクラスの水に溶け込んでしまった。
クラス一ともいえる社交性を発揮し、忽ちのうちに人気者に伸し上がってきたヒトミ。
「『ヒトミ』って、なんか女の子みたいな名前ね~。顔も女の子みたいだし~」
と口さがない女生徒から、早速冷やかされるや
「ハッキリ美少年と言ってくれよな~、照れない照れない。前の中学でも、女に騒がれて逃げてきたようなもんだぜ。アハハハ・・・オレのこの顔ってさ、化粧したらマジで女と間違われるぜ~。歌舞伎の女形みたいだろう、アハハッハハハ」
などと臆面もなく口にする厚かましさには、誰しも空いた口が塞がらぬ態だったが、陽気な性格に加え頭の回転も確かに早く、ミーハーな女生徒の人気をそこそこに集めるには充分だった。
そんな「美貌自慢」で、人一倍目敏いヒトミが、にゃべの美貌を見逃すハズはなく
「級長のにゃべってのも、なかなかかわいいツラしてんじゃん。オレと、どっこいどっこいってとこか・・・ギャハハハ」
「なに言ってんの。にゃべの方が、アンタよりよっぽどイケメンじゃん」
ヒトミもにゃべ、マサと並ぶ《B中三大色男》に数えられるレベル(個人的には、マサの方に軍配を上げたいが)とはいえ、上のような意見が大方の女生徒の見方であったことは言うまでもない。勿論、そこには転向早々のこの厚かましさに、反発を覚えての感情的な部分も大いに作用していたことだろう。
「ヒトミって確かに色男風だけど、なんかちょっと卑しいっていうか、下品な感じしない?
ま、そういうのがいーってコもいるんだろうけど・・・にゃべの方がお坊ちゃん然として、品が良い感じ」
というある女生徒の分析は、真に当を得たものであったろうw
ところで、そのクセのある美貌とともに、このヒトミは常々頭脳に関しても自慢していた。
「前の学校では、常にクラスでは1番か2番で、学年でもヒトケタだったな」
というのが口癖だ。
「ヒトケタとか言っても、人数にもよるしね~」
「ココよりは人数少なかったけどな。ま、300人くらいだから、それでも標準だろ。大体、ここの500人ってのが多すぎんのよ。普通、ある程度都会の学校だったら、精々300人くらいのもんだぞ」
などと、例によって立て板に水の口調でまくし立てていた。
そうこうするうちに、10月始めに中間テストがあったが
「準備不足のヒトミは、今回は無理に受けんでもええが、試しにやってみるか?」
と、オグリ女史から問われ
「オレも、どっちでもいいっすよ・・・」
「どっちでもええんじゃなく、オマエが自分で決めんか~い!」
といったやりとりの末、結果的には中間テストは用心深く回避し、12月の期末テストから参加する運びとなった。こうした経緯から、皆に羨まれながら高みの見物を決め込んでいた中間テストでは、前期の級長を務めていた「にゃべとオーミヤが、見事に学年1、3番を占めた!」と、オグリ女史から発表され
「オ~イ、ヒトミちゃーん。期末ではキミも入って、ウチのクラスでトップ3独占を期待して、いいんだよねー?」
と転向早々、思い切り皮肉を利かせた発破をかけられたヒトミ。
「う~ん、まだ来たばっかりだし、トップ3はどーかな?
こりゃ、えらいクラスに入れられちゃったぜ・・・それにしても、オーミヤは見るからに賢いのはひと目で解ったが、お坊ちゃま風のにゃべのヤローがトップってのは、どう考えてもマグレだろ?」
と、どこまでも遠慮がなかった。
ともあれ期末テストで、その真価が試される事になったヒトミ。その後、渾名付け名人・にゃべにより「オロチ」と命名されたが、その運命のテストには「オロチ」とともに注目されることになる、もう一人の転校生が待ち構えていた。
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