詐欺師とは人の弱みを見抜いて、そこへ巧みに付けこむ才能に優れた者である。が、いかに腕が良くとも、騙す相手が居ない事にはサギは成り立たないから、善良そうな「獲物」を見つけ出してくる嗅覚を備えている事が、重要な条件である。そもそも騙しのテクニックそのものは、社会で揉まれているうちに腕を磨く事も出来る後天性のものだが「獲物を見つけ出す嗅覚」となると、これはもう努力や経験だけでは如何ともしがたい、先天性の才能(?)に拠るところが大きいであろう。
前回までの経緯により、6月末までで今の現場での仕事を終える事になったが、ちょうどそんなタイミングで、2箇所から新たなオファーが舞い込んで来ていた。
とはいえ、一方は静岡までの新幹線通勤という話で、もう一方は仕事自体がルーチンワークが主体で魅力に乏しかったりと、どちらも帯に短し襷に長しであった。
(6月末までと啖呵を切ったは良かったが、これで7月からの仕事にあぶれたら、格好がつかんな・・・)
と心配していたところへ、あたかも遠く離れた名古屋の中心部からこんな状況を監視していたかとでもいうような、まさに絶妙のタイミングで電話をしてきたのが誰あろう、あのこれまでに何度もインチキ臭い話で散々にダマクラかして来た挙句に、最後はトラブルの最中にさっさと雲隠れを決め込んでいた、あのSK社のT社長であった。
「SK社のTですが・・・にゃべっちさん、お久しぶり~!」
以前に記述した、ドタバタ劇以来である。本来なら、声を訊いた途端にでも
「バカヤロ~!
二度と電話してくるんじゃね~よ、この詐欺師めが!」
とでも怒鳴りつけて電話を叩き切るところであったが、何せこの時ばかりは世間から半ば浮き上がりつつあるような状況に身を揉んでいた時期だけに、背に腹は代えられず心ならずも本心を曲げて対応する事になったのであったが・・・
まさか今更、コイツからアプローチがあるとは露ほどにも考えていなかった事もあって、どう対応したものかと決めかねていると、その暇を与えはせぬとばかり
「この前は、あんな事になったけどさ・・・もう一回、ウチの紹介を受けてみる気はないかな?
今度は、にゃべさんにピッタリのいい話があるんだ・・・」
(どうせロクな話じゃないんだから、訊かずに断れ!
この手で、今まで何度騙されてきた事か)
と頭の中の冷静な回路が命じる声が聞こえたが、何故か口をついて出た言葉は全然、意図せざるものであった。
「まあ話によっては、やらなくもないですがね・・・」
「お・・・じゃあ話によっては、やる気があるんだね。
いや~、実はとてもいい話なんだ・・・場所は栄周辺だし、xxx関係の仕事でね・・・」
途端に、勢い込んで話を始めたところによれば、なんでもxxx社が最近になって力を入れている、金融関係の子会社のIT部門で東京から出張して来ていた現場リーダーの交代要員として、後釜を探しているという話であった。
「にゃべさんがOKなら、直ぐにも先方(元請け)に書類を流そうと思うんだけどな。チラッと、こういう人だと輪郭だけ話しだけだけど、先方がかなり興味を示してね。
『是非、一度お目に掛かりたい!』
という事だから、案外話は早いんじゃないかな・・・」
などと、例によって調子良く捲くし立てるのであった。
「まあ取り敢えずは、話だけなら訊いても良いですが・・・」
しかしなにせ相手が相手だから、ここは一本クギを刺しておく必要があった。
「前回の件について、確認しておきたいのですがね・・・あれについて、Tさんはどうお考えなのかわかりませんが、私としては引っ掛かりが残るところですよ。何しろ、あの時はこっちの方は酷い事になったのに、Tさんはどっかへ雲隠れでもしてたのかCS社のY氏に訊いた話では、まったく連絡が取れないとか言ってたので・・・おかげで上の会社の部長とやらから、こっちに直接脅しの電話が掛かってきて来たりで、夜に2時間以上も非常識な対応をさせられて、随分迷惑したものでしたが・・・」
なにせ今度の仕事をするとなれば、嫌でもこのTとは付き合っていかざるを得ないのだから、この際我慢してでも付き合えるかどうか、じっくり見定めておく必要があるのだ。
「いや、あれは確かに迷惑をかけて、悪かったと反省してるよ・・・ま、結局のところはYの引き抜きだから、オレもヤツにはすっかり騙されたクチだからYのところへ怒鳴り込んで行ったし、あれからはもうアイツんとことは一切、取引してないよ」
どうにも嘘っぽい話だし、相変わらずYに総ての責任をおっ被せている点は気に喰わぬものの、一応は謝罪とも取れる言葉が出たから、今度ばかりは大目に見ておこう。何度も言うように、こちらとしても状況が状況なのだから、なんと言ってもこの際贅沢は言っていられない。
「では具体的な事が決り次第、連絡するのでよろしく~!」
と電話を切ったその日の夜に早々に連絡があり、指定された日に現場のリーダーとTの待つマリオットのCaféへ向かった・・・
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