元来、気性の烈しいところのあったオグリだったが、連日野球部の厳しいシゴキに揉まれ見る見る筋肉隆々と化していくに伴い、その気質は益々エスカレートして来た。
或る日の事。
「オイ、にゃべ。クラスの女で、オマエが一番許せないヤツは誰だ?」
学校での嫌われ者といえば、どこでも似たり寄ったりだろうが『B中』にもご多分に漏れず出来が悪い上にご面相も良くない、或いは出自に関する噂が取り沙汰されたり、家庭環境に恵まれないなどの典型的なタイプが何人かいた。オグリのこの唐突なこの質問に、大した意味があるとは思えなかったため、いい加減にある学生の名を挙げたのだが、その瞬間いきなり強烈な張り手が飛んできた。
「バカヤロー!
一番イヤなヤツといえば、ヨシダに決まってんだろーが。オマエも案外と、人を見る目がねーやつだなー」
ヨシダというのは『C小』出身で髪を赤毛に染めた上に、制服も校則からは大きくはみ出したような、いわばデキの悪いツッパリ娘で、非常に気が強くヒステリーの気のあるタイプだった。オグリは、このヨシダが「いかにイヤなヤローか」を例を幾つか挙げて力説するのだったが、さすがに日頃は温厚なにゃべっちとはいえ、このやり方にはムッとこないはずはない。
「オマエなー、いきなり張り手ってのはねーだろーが?
オレだけじゃなく、他のヤツラにもそういう馬鹿げた真似が出来るか?」
と詰め寄ると、負けず嫌いのオグリは平気の平左で
「オーオー、今からやろうと思ってたところじゃねーか。まあ、見てなって・・・」
と言うが早いか、信じられないことにオグリは男子生徒の名簿を片手に一人一人に、同じ質問して廻った。そして殆どの学生が迷わず、ある貧しいオチこぼれの名を挙げる『B小』出身者には容赦のない張り手が飛び、殆どが「ヨシダ」の名を挙げる中、別の名を挙げる『C小』や『Y小』出身者も、同様の洗礼を浴びる事になった。
さすがにいきなり張り手を喰らい、驚きながらも即座に張り返す猛者も何人かいたものの、オグリの異様な気迫を感じてか大部分はおとなしく引き下がった。
そして・・・悲劇の主役となったのは、にゃべ、真紀に次ぐ優等生で『Y小』では生徒会役員を務めた、オカダというガリ勉少年である。
「おい、グリよ・・・自分と意見が違うからって、いきなり暴力ってのは良くないぜ」
至極真っ当な言い分だったが、このオカダの優等生的な言動が日頃から癇に障っていたらしいオグリは
「なにー?
テメーは、級長でもねーのにリーダーヅラしやがって、このバカヤローが!」
と下らぬ事から掴み合いとなり、オグリの見舞ったキックがオカダのミゾオチに綺麗に入ったから、堪らない。哀れオカダ・・・腹を抑え蹲ったまま、暫し起き上がれず。心配(実は好奇心?)で渦中を遠巻きにしながらも、様子を見に寄ってきた生徒らの中
「オイオイ、なにクダラン事で暴れてんだ・・・?」
と漏らした、悪戯者のカシワザキをギラリとひと睨みしたオグリは
「なに・・・クダランだと?
テメーもあーゆー風になりてーのか・・・?」
と啖呵を切って見せる暴走ぶリである。実に困った暴れん坊だ。
「オイ、グリよ・・・もうそんだけやりゃあ、気が済んだろ~が。いい加減のとこで、止めとけや」
「なに言ってんだ・・・オマエのライバルを一人消してやったんだから、オレに感謝しろ・・・」
と、嘯くオグリ。
「オカダが、オレのライバルだと?
冗談は止してくれよ・・・」
と、うっかり口を滑らせたホンネが周囲の爆笑を誘い、幸運にも張り詰めていたムードが一気に和らぐ結果となった。
普段は冷静な真紀も、さすがに女子である。この突然のオグリの狼藉には、元々白い顔を紙のように一層白くして
「どーしたの、彼?
にゃべも大変ねー・・・」
と同情しきりなのであった (=^~^=)
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