2004/03/04

青天の霹靂(T社極秘プロジェクトpart8)


 5月も後半になるとすっかり業務にも慣れ、一ヶ月前から入っていた先行メンバーとも、ほぼ同レベルに達していた。夜間一人の時に起こるような障害にも対応する自信を備え、また変則的な勤務のリズムにもすっかり慣れてきつつあり

 (さあ、これからはバリバリとこなして行くぞ~!)

と張り切っていた矢先である。

そんなタイミングの時に、委託元の女性営業担当から

「一度、お会いしたい」

とアポイントメントがあり、勤務終了後に現場近くの店で会う事になる。

普段はメールでの遣り取りのみだったから、久闊の挨拶を済ますと

「実は・・・契約の件なんですが・・・」

と、なにやら切り出し難そうな口調で、それでも話を始めた。

「今のF社さんとの契約は3か月単位となっていて、普通なら自動的にドンドンと更新されていくというお話でしたが・・・実は、次の6月の契約は3ヶ月で更新して9月からは・・・F社さんの内部調整などもあって、別の要員と交代も視野に入れておいて欲しい、という申し出がありまして・・・」

「はぁ・・・?」

このプロジェクトは前にも何度か記述した通り、準備期間となる3月からスタートし、4月からの三ヶ月間が導入試験をしながら実運用に入る。実際に起きる、トラブルなどの問題などを洗い出していく時期を「第一フェーズ」とし、続く7月からの3ヶ月間で運用基盤が整備されたところで、障害対応マニュアル及び本運用のためのマニュアル等の作成とツール化をし、10月からの本運用に橋渡しをしていく時期が「第二フェーズ」と位置付けられていた。したがって、このタイムスケジュール通りに順当に運べば、10月以降の本運用では障害対応などの殆んどのものがツール化(簡易化)されているはずなので、大した技術を持たぬ技術者であっても、そこそこの知識さえあればマニュアルベースで対応がこなせるから、そこで交代となるのはその限りにおいては渡りに船といえたが・・・

とはいえ、最初の話では

「出来る限り、長期間でお願いしたい!」

という事だっただけに、その点がどうにも引っ掛かり問い詰めていくと

「まあ、にゃべさんだから、ブッチャケた話をしてしまいますが・・・実はT社さんの求められるレベルがとても常識外れに高く、現行の4人のメンバー全員に不満があるらしいのです。プロジェクトリーダーのMさんは

『皆さん、最近は良くやってくれてますよ!』

と、言っておられたんですけどね・・・それで最初の話では、第1フェーズ終了となる6月末で2名を交代して欲しいと・・・

『代わりの2名は月額が100万でも200万でもいいから、F本社からでも絶対にミスのないバリバリの技術者を連れて来い!』

というムチャな話で・・・」

 「アホな・・・そんなロボットみたいなのが、居るわけがない。F本社くらいならいるかもしれないけど、そんなヤツが遊んでいる訳がないでしょう。ワタクシがダメだと言われてるのは、つまり最初の夜間対応が上手く出来なかったから、という事ですな?」

「どうも、そうらしいです・・・最初の時に、連絡を受けたT社の偉いさんが    

『何を言ってるのかよくわからんかったが、あれで大丈夫なのか?』

とか言ってたらしくて・・・」

確かに最初のトラブルでは、自分でも何がなんだかわからないまま、義務的に説明の連絡を取ったから、色々と突っ込まれた時には、シドロモドロの説明となり

「そんな事で、その障害をどうやって治すつもりなの?」

と、突っ込まれたものだった。

しかも、その緊急時に連絡体制に沿って、3人もの幹部に経過報告の連絡をしなければならない。3人目のR氏は元請けの総責任者として、時々顔を見せていた(この人物が実はT社の幹部で、スパイとして様子を見に来ていたのは、ずっと後で知らされた)この人物が、かなりイヤミな突っ込んだ質問ばかりをしてきたので、次第に腹立ちが嵩じて

「ともかく、こうして電話でゴチャゴチャやりあってるよりも、障害対応を優先しますので直り次第、また後から報告しますよ」

と電話を切ってしまったのが、相手にかなり悪印象を残したらしい。

実際、トラブルが起き対応している最中に、電話でゴチャゴチャとイヤミな質問を投げかけてくる無神経さと悪趣味に呆れるとともに

(つまり、この程度は実際には大したトラブルと認識してないんだな・・・)

と判断してからは、落ち着きを取り戻す事ができたのであった。

「新しい環境で、最初からなにもかも完璧に出来るような人間なんて、いないと思いうけどね・・・」

「私も・・・本当に、そう思いますよ。F社さんも随分と困っていたのですが、現場の事情を知らないT社さんは、無理を承知で要求をゴリ押ししてくるのだと・・・後の2人が比較的文句を言われてないのも、偶々今までのところ大きなトラブルに見舞われていないだけとか・・・確かに、言ってる事はメチャクチャなんですけど、なにしろ相手がT社だけに・・・」

世界のT社の声は天の声」と言われ、どれだけの人間が泣かされて来たかという話はあちこちで耳にしてはいたが、今まさにその火の粉が我が身に降りかかってきたわけである。

「それで・・・あの時はまだ研修を終えたばかりで、初めての夜間対応である事などを説明すると

『そう。じゃあ、もう少し見てみようかな・・・ともかく現行の4人では不安が残るから、第2フェーズからは交代要員を最低2名で予定しておいてよね・・・』

という結論になったとF社さんから昨日話がありまして、F社さんも突然の話に大童で、もう一度掛け合ってみますと・・・」

が、既に話の半ばから、もうどうでもよくなっていた。と言うよりは、どうも以前から漠然と感じていた、こうした人事を巡る元請け会社やらF社やらの裏工作めいた胡散臭い構図がおぼろげに見えて来つつあったその場で、気の短いこちらは素早く結論を出していた。

「なるほど・・・趣旨は、よくわかりました。では、ワタクシは9月と言わず6月一杯で身を引くので、後はF社のスーパーマンに代わって貰いましょう!」

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