2004/03/19

「神童」の姉

 にゃべ家で《学力》という点では最もパッとしなかったのが、姉ミーちゃんであった。

兄マッハは、学校区トップの『A高』には僅かに届かなかったものの『A高』に続く進学校2番手の『Y高』から(一浪ながら)、A学大に進学。末っ子のにゃべは中学1年で受験はまだ先だが、現時点では『A高』合格はまったく疑いのないところで、ゆくゆくは相当な一流大学への進学が期待される逸材である(あくまで中1の時点での、見通しではあるが・・・)

そんな兄弟に挟まれた、姉ミーちゃんも子供の頃は抜群に良かった。小学生時代はクラスで34番だった兄マッハを遥かに凌ぎ、クラストップを争ったミーちゃんは、通信簿でも7教科中「」が5つの才女。『B小』では、4年生から委員長制が始まるが、人気者のミーちゃんは4年生から6年生までを通して、医者の娘2人を抑えて1学期の委員長を務めるほど優秀な成績で、この内科と歯科の娘もミーちゃんには一目置き、にゃべっち家にしばしば遊びに来ていた。

6年間学年トップ通し続けた弟の「神童」には、さすがに比するところではなかったものの、ここまでは典型的な天才少女の道を驀進して来ていたが、残念ながらミーちゃんの黄金時代は、ここまでで早々と終焉を告げた。

弟同様、元来が勉強嫌いのミーちゃんだっただけに、中学生となるやあれよあれよという間に成績が凋落し、高校受験を控えた時期にはちょうど全体の真ん中辺りに埋没してしまっていた。

「あのコも小学生のころは、アンタほどではないけど、マッハよりは余程デキのいい子だったのにね~。どこから、あんなにおかしくなったのかしら・・・あんなパッとしない成績は、ウチの一族にはいないんだけどねー」

大阪大出というインテリの父と、名古屋ばかりか東海・中部圏随一の名門『東海高校』から国立・名古屋工大に進んだ兄弟を持ち、自らも中学から大学まで東海・中部圏一のお嬢さま学校『金城学院』で通した母は、姉ミーちゃんの成績に話が及ぶや出るのは溜息ばかり、というのが常であった。

またスポーツ万能だったマッハとにゃべっちは、それでけでスポーツ特待のヒキが来そうだった(事実、マッハには『名古屋学院』や『中京高』など幾つかの学校からお誘いがかかった)が、平均よりはいくらかは優れていたとはいえ、これといった図抜けた特技のなかったミーちゃんにスポーツ特待がかかる事もなかった。

 さて、そんな大の勉強嫌いのミーちゃんだから、高校受験を間近に控えた時期になっても

「どこでも入れるトコでえーわ」

と受験勉強などとは一切無縁であったことは、言うまでもない。しかしながら、そんな勉強嫌いのミーちゃんの好むと好まざるとには拘らず、春の気配の訪れとともに、高校受験は例年通り容赦なくやって来る。学年全体で平均すると、精々が真ん中よりやや上程度のミーちゃんであっては、県全体でもトップレベルに数え上げられる学校区トップの『A高』や、『A高』に次ぐ進学高『K高』、或いは35番手辺りの公立高校は、ハナから選択外だった。

A市内には、ほかに商業高、工業高、農業高などもあったが工業高は当時は男子校だったため対象外。また農学校に通う事は考えられず、順当なら商業高校に入学する事になるケースだった。にゃべと2年違いのミーちゃんの学年では、他の学校区の生徒が混ざって学年全体で700人を超える大所帯だったが『A商業高校』は真ん中よりやや下くらいの学力で、内申もオール3をやや下回る程度でも合格出来ると言われただけに、真ん中よりは辛うじて上であるミーちゃんの学力でも充分だった。さらに立地的にも徒歩78分と最も近く、総ての条件がまさに誂えたように整っていた。

ところが、である。己の美貌に、かねてより頼むところのあったミーちゃんだけに、生来の派手好きでワガママな性格が頭を擡げ、日頃近所で見慣れた『A商』の

制服がダサい!

「あんなとこ(『A商』)、イモねーちゃん丸出しのコばっかりだし・・・家からも近過ぎ」

といった調子で、なにかと難癖を付けてばかりで、どうにも気が進まない様子であった。

 制服といえば、弟同様に幼い頃から「美形」で通っていたミーちゃんだけに、オシャレには人一倍の拘りを持っていたようである。デキの良かった小学生時代の学芸会で『マッチ売りの少女』のヒロインに抜擢されたミーちゃん。秘密主義のマッハとは違い、ミーちゃんは明け透けな自慢好きタイプであった。

「おかーさーん!
ミーちゃんね~、学芸会のヒロインに選ばれたんだよー」

「へぇー、凄いじゃない・・・どうして、ミーちゃんが選ばれたの?」

「そりゃあ、ミーちゃんが一番カワイくて、頭も良いからに決まってるでしょ」

などと、鼻高々であった。

ところが、数日後

「おかーさーん!
この前話した学芸会のヒロインの役だけどねー。あれ、断ったよ」

「えっ?
断ったって・・・それは、またどうして・・・?」

「だってさー。今日、初めてお稽古したんだけど・・・そしたらツギハギのみすぼらしい衣装を着なくちゃいけないんだって。

『どうして私が、こんな汚いのを着なきゃいかんのー?
イヤだ。こんなの、絶対に着たくないっ!』

って断ったの」

といったエピソードがあるくらい、子供時代からオシャレには異常なまでの拘りがあった(というか、要するに単なるワガママか)

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