2004/03/02

サーバ室篭城事件?(T社極秘プロジェクトpart6)

 以前にも触れたように、この現場へ入るには門とオフィス棟とで二種類のカードキーが必要となるのだが、出向が始まってから既に1ヶ月が経過しているにもかかわらず、そのカードキーとなるIDカードが出来上がってこなかった。 そのため出勤時には、まず門衛所で記帳をして身分を明らかにした上で、通門許可証を受け取る。そしてオフィス棟に入る時は、中にいるリーダーの携帯にコールして開けに来て貰うという、甚だ面倒な手順を踏む必要があった。

勤務中に、手洗いや喫煙に行く時は他のメンバーから借りたり、それも面倒な時は日中の時間帯であれば何人ものスタッフが頻繁に出入りしているため、その時に便乗して滑り込んだりしていた。そんな不自由を一ヶ月間我慢した末に、ようやくの事でIDカードとキーが手渡される運びとなった。

さらにサーバ室に入る時には、照合が必要となる指紋の登録も併せて行った事で、ようやく必要不可欠な場所への出入りが自由になったのである。サーバ室とは、言うまでもなくどの現場でもそうだが、コンピューター業界では心臓部に当たる最も重要な聖地である。殊に、この現場は世界のT」が密かに推進する、業界最新技術を導入しての大プロジェクトが行われている事からも、その重要性はわかろうというものであろう。

ここで、その環境を詳述する事は守秘義務に照らして出来ないものの、ざっというならMicrosoftSun、富士通、IBMRedhらのサーバ群、またコアな部分にはF/Wなどセキュリティ機器やCiscoの最新鋭機器がズラズラと並んでいる様は、ネットワーク技術に携わる業界人の目には垂涎とも言うべき壮観である。このネットワーク上に、なんらかの障害が起こった時はログを解析して、その原因を突き止めることが第一義であるが、どんな障害にもせよ根幹はどれかのサーバに辿り着くわけだから、いずれにせよサーバ室へ足を運びハード面の異常も確認しなくてはならないのは、常識中の常識である。

「にも拘らず、既に研修期間も終了したというのに、サーバ室に入るための権限さえ付与されぬまま、借り物の身分で単独での夜間対応のシフトに組み込むとは、何たる事か」

リーダーと、そして後方でいつも聞き耳を立てているような、T社のスパイと言われる現場全体のリーダーにも、聞こえよがしに毎日のように声高に文句を言い続けてきた。ようやくにして、リーダーとクライアントであるT社の担当者立会いの下、指紋登録が完了したのは5月のGWも開けてからの事であった。

 とにもかくにも登録が完了すると、担当者から「確認のため一度、この場で試してみてください」と言われ、暗証番号を叩いた後に指を置いてみるが、これが何度試みても

《登録されているデータと一致しません》

と、撥ね付けられてしまうのである。

なにしろ、何度も述べている通り堅牢なセキュリティシステムだから、登録時に置いた指の角度なども認証時には影響されてしまうらしく、何度も入室して慣れているはずのメンバーに聞いたところでも、未だに二、三度弾かれるくらいは当たり前の事のようであった。

「何度か失敗が続くうちに、次第に指が汗ばんできたりしますと認識は不可能になりますので、落ち着いて行ってください」

との事で、7回目か8回目にしてようやくの事で認証され、リーダーからサーバ室の説明を受けた。

(しかし・・・サーバ室へ入るのにこんなに認証に苦労するようでは、いざ緊急事態の時は怖いよな・・・)

この点が引っ掛かり、密かに空いた時間にリーダーの目を盗んで、喫煙のついでに試してみる事にした。2度目のトライだが、やはりなかなか認証されず、10回目くらいでようやくロックの解ける「カチッ!」という音を聞いて、サーバ室に足を踏み入れる。

(やっと入れた・・・)

ちょうど、誰も作業している者のないサーバ室は、電気も消され真っ暗だったため手探りで電気の在り処を探していると

ギィィィ~

という音とともに、ドアが閉まってしまった。

(マズイ!  閉じ込められたか・・・?)

一瞬、嫌な予感が脳裏を掠める。手探りでは電気の在り処は一向にわからず

(取り敢えず、外に出てみる事だ・・)

と判断したものの、案の定セキュリティロックに何度指を置いても

《登録されているデータと一致しません》

というメッセージが、あたかも焦りを嘲笑うかのように何度も出てくるばかり。電気の在り処はサッパリわからないし、かといってどこかにあるはずのそれを探すのに暗がりの中を手探りで歩き回り、うっかりサーバに繋がっているケーブルに足を引っ掛けでもしたら、それこそ取り返しのつかない大トラブルにも発展しかねないから、迂闊には身動きもままならない。

 「こんな事なら、携帯を持って入るんだった・・・」

と後悔してみたところで、総ては後の祭りである。まさに八方塞がりの状態。このまま待っていれば、遅かれ早かれ作業者が入って来る事になるから、よもや

《真っ暗なサーバ室で出向技術者餓死!》

といった最悪の事態で、三面記事を飾るような事はまず考えられぬものの、作業者が入ってくるタイミングだけは案外こうしている今すぐなのか、はたまた暫くは作業予定もなく障害も出なければ半日後とかになるのか、まったく見当が付かなかった。そのうえ万が一、次に誰かが入って来る時までこの状態が続くとすれば、今度は

(こんな暗がりの中で、一人でゴソゴソとやっている怪しげなヤツ)

てな事にもなりかねないという、別の心配も頭を擡げてくる。それでなくとも、先月から出向してきたばかりでありながら、先行メンバーにも遠慮会釈のない物言いをするせいで、気の短いS氏とは仕事を巡ってしょっちゅう大声で口論をしていたし、また日頃からプロジェクトリーダーや現場リーダーにもデカイ口を叩いてきていたために、さり気なく他の部署のメンバーからも注目されている立場は、ヒシヒシとその身に感じていた。ましてや、事情を知らぬT社のお偉方などが何らかの用事で入ってでも来た日には、下手をすればスパイ容疑の濡れ衣をも着せかねられない状況でもある。  

そういった悪い予感ばかりが次々と頭をよぎり、余計に認証が巧く行かないという事もあったろう。その後、執念で何十回と試みを繰り返した挙句、ようやくの事で

カチッ!

というロックが解除する音が聞こえた時は、思わず手を叩いて小躍りしかけたものだった。実に長く感じはしたものの、実際の時間にすれば精々5分程度の出来事であったろう。すっかり疲れはしたものの、何食わぬ顔で手洗い帰りを装ってリーダーの隣に座った瞬間は、今しも

「今まで、何してました?」

とでも問い詰められはせぬか、とヒヤヒヤした座り心地の悪さ。この「事件」によって、確実に寿命が数年分は縮んだ事だろう (* ̄m ̄)ブッ

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